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西内啓『サラリーマンの悩みのほとんどにはすでに学問的な「答え」がでている』(マイナビ新書)

昨日採り上げた『統計学が最強の学問である』の著者、西内啓氏の書いた本で、新書版の読みやすいものを続けて紹介したい。西内氏は学問の有用性、仕事への活用を説いていて興味深い。

 

本書は、会社組織で働くサラリーマンが共通に持っている悩みをいくつか採り上げ、それぞれに「学問的な」解決策を提示している。「学問」をきちんと学び、それを現実の仕事に応用していけば自ずと解決策が見えてくる、ということだ。

 

まず、「サラリーマンはなぜ頑張っても給料が上がらないのか」という悩みに答える。ソローの経済成長モデルを紹介し、収穫逓減の法則や1人当たり生産性の向上がなければ給料は上がらない、と説明する。同じやり方を続け、人だけ増えてもだめだということだ。

 

新たなやり方、あるいは新たな事業を生み出していくことの必要性を理論的に説明したのが、ポール・ローマーの「内生的経済成長理論」だ。会社や社会全体の生産性に大きな影響を持ち、使えば使うほど価値の出るものを提唱した。それが、「知識」や「知恵」や「アイデア」だ

 

大事なのは、新しい知恵やアイデアによって生産性を高めることだ。そのためには、①つねにきちんとした知識を身につけ、回りと共有すること、②この知識やアイデアを十分にストックし、使えるようにしておくこと、の2点だ。「経験と勘」だけで仕事をしても生産性の伸びは逓減していく。

 

また、「どうすれば職場の人間関係がうまくいくのか」 という悩みを採り上げている。その答えは、「組織行動論」という学問だ。これは心理学、社会科学、行動科学、政治科学といった様々な分野の知見を統合し、「どうすれば会社組織はうまく回るのか」 という研究を行った学問だ。

 

組織行動論でまず研究テーマにされたのが、「リーダーシップ論」だ。どのような人間がリーダーとしての適性を持っているか、リーダーはどのような行動を取ればチームメンバーたちはうまく動くか、という研究だ。

 

次に、すべての状況で万能なリーダーシップはない、というところから、「どのような状況ではどのようなやり方が合うのか」 という、「条件適合理論」という考え方が研究されるようになった。

 

組織行動論の研究が明らかにした大きな発見は、「人間は自分にとってベストなやり方を全ての人にとってベストだと錯覚している」 ということだ。

 

したがって、「いかに自分と異なるタイプの人間がいるのか」 を理解した上で、「自分と異なるタイプに合わせてどう接すればよいのか」 という対策を持っておけばよい、というのが最新の組織行動論から導かれる結論だ。

 

組織行動学は、組織内で人々が示す行動や態度についての体系的な学問であり、「対人関係スキル」の開発の重要性を明らかにした。

 

本書は、サラリーマンが皆、悩んでいる組織の中での問題に対し、「何となくこうすればよいのではないか」 という曖昧な方法論に、はっきりと理論的・学問的な裏付けを示してくれるものだ。ぜひ、一読してみて欲しい。