「より高度な検査や治療、たくさんの薬、充実した介護施設を求める一方で、負担の増加には背を向ける。痛みを伴う改革を忌避する意識が変わらない限りは国を挙げた抜本的な社会保障改革は望めない。」と述べている本があります。
本日紹介するのは、2018年11月から2020年3月にかけて、日本経済新聞や日経電子版に掲載した調査報道シリーズ「漂流する社会保障」の記事をベースに再構成した、こちらの書籍です。
日本経済新聞社『無駄だらけの社会保障』(日経プレミアシリーズ)
この本は、「本当に困っている人を支えるために私たちは何をなすべきなのか」を考え、日本の社会保障のあるべき姿を探り、自らのことと国を結びつけて議論するきっかけとなるように書かれた書です。
本書は以下の5部構成から成っています。
1.そのクスリ、本当に必要ですか?
2.つくられる入院患者
3.見えぬ地域医療の未来像
4.終の棲家、どこへ
5.クライシスを避けるには
この本の冒頭で著者は、新型コロナウイルスの感染拡大で噴出している検査体制や専用病床の不足などの問題を踏まえた内容になっていない、と前提を述べています。
そのうえで、社会保険の構造問題はコロナ危機の前後でなんら変わりはないだろう、と説明しています。そのぐらい医療保険財政は破綻の危機にある、ということです。
本書の前半では、薬に対する過剰な保険支援と、「つくられる入院患者」というテーマで過剰ベッドの問題(但し、感染症専門の重症患者向け病棟についてはここでは考慮していない)を取り上げ、解説しています。エビデンスの数字などに基づく主なポイントは以下の通り。
◆ 市販薬があるのに、病院処方で5000億円の保険負担
◆ アンチエイジングクリームとして、アトピー性皮膚炎の治療薬の保湿剤「ヒルドイド」を処方する病院
◆ ドラッグストアですぐ買える湿布薬も病院処方で自己負担を削減
◆ 軽症の薬の自己負担比率アップも医師やがん患者などの反対でままならない
◆ フランスの5段階保険適用(0、35、70、85、100%)は参考になる
◆ 後期高齢者(75歳以上)に広まる年100万円超え(一人当たり医療費)
◆ 後期高齢者の医療費でも大きな地域格差
◆ 過剰ベッドが減らぬ病院と入院の長期化
◆「7対1ベッド」導入失敗で、医療費2兆円増加
◆ 自治体の9割で根拠の薄いがん検診
この本の中盤では、「見えぬ地域医療の未来像」と「終の棲家」の動向について考察しています。ポイントは以下の通り。
◆ 公立病院で膨らむ「隠れ赤字」
◆ 国保健全化は自治体補填で進まない状況
◆ 掛け声倒れの医療ITネットワーク
◆ ネット処方箋は普及遠い
◆ 全国の単身高齢者593万人(2015年)と急拡大
◆ とくに3大都市圏での単身高齢者が増加
◆ 一人暮らし高齢者の要介護認定率は2~3倍
◆「ハコモノ」重視から「在宅」へのシフトが急務
◆ 介護「外国人」の確保にも死角
本書の最後で著者は、「医療保険のクライシスを避けるには」として、次の提言をしています。
◆ 決算を重視したPDCAサイクルが不可欠
◆ データ公開と「ロジックモデル」がカギ
◆ 痛みを恐れず、病床再編を
◆ 介護の脱ハコモノ、人材育成を
あなたも本書を読んで、日本の医療保険に関わる危機を知り、できることから行動してみませんか。
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では、今日もハッピーな1日を!【2446日目】