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アル・ゴア 『未来を語る 世界を動かす6つの要因』 (角川マガジンズ)

アル・ゴアは米国クリントン政権時代に2期8年、副大統領を務め、後に地球環境問題への貢献でノーベル平和賞を受賞した。副大統領時代は、情報ハイワエイ構想で米国のIT産業成長のためのインフラ整備に力を発揮した。

また、『不都合な真実』 を発表して、地球環境の将来に警告を発し、世界じゅうで大きな反響を呼んだ。未来を予測し、的確な政策提言を世界的なレベルで行う実行力、先見性には定評がある。

本書は、未来予測で数々の実績を挙げてきたゴア氏がまさに、世界の未来を語った書だ。構成は以下の6部からなり、それぞれ世界を動かす6つの要因を詳しく説明している。

1.アース・インク
2.グローバル・マインド
3.力のバランス
4.増殖
5.生と死の再創造
6.崖っぷち

まず第1の要因は、互いに深くつながり合ったグローバル経済の出現だ。著者はそれをアース・インク (地球株式会社) と呼ぶ。以前とは全く異なる新しい形の資本の移動、労働力、消費市場、中央政府との関係が特徴だ。

第2の要因は、世界規模の電子通信網の出現。この電子通信網は、世界数十億人の人々の考えや感情を結びつけるもので、急速に拡大する大量のデータ (ビッグデータ) や急成長中のセンサー網、インテリジェント装置やロボットなどだ。「考える機械」 と人間がつながる世界もすぐそこだ。

第3の要因は、世界における政治力、経済力、軍事力のまったく新しいバランスの出現。米国が国際的指導力と世界の安定を提供することによる均衡ではなく、影響力は西洋から東洋へ移行する。また、富める国から新興の権力中枢へ、国民国家から民間の主体へ、政治制度から市場への移行も進む。

第4の要因は、人口、都市、資源消費量、表土の流出量、淡水供給量、失われる生物種、汚染の排出量、など持続可能でない急速な増加という状態の出現だ。歪められた測定基準も大きな問題になってくるだろう。

第5の要因は、生物科学、生化学、遺伝子工学、材料科学に関する、革新的かつ強力な技術群の出現。これらの技術によって、あらゆる固形物の分子設計を再構成し、生命の構造そのものを組み直し、植物や動物、人間の物理的形状、形質、性質、属性を変え、進化を能動的に制御することが可能になった。自然界では想像もできなかった新しい種を生み出すことも可能になりつつある。

最後第6の要因は、人間文明の力の総和と地球の生態系、とくに、人類の繁栄が続くかどうかのカギを握る大気と気候のバランスという、生態系の最も脆弱な部分との間のまったく新しい関係の出現だ。健全でバランスのとれた関係を再構築するため、大規模な世界的なエネルギー、工業、農業、建築技術は変容を余儀なくされるだろう。

これらの未来を動かす要因については、突っ込んだ調査と報告に基づき、データが示すものを中心に書かれている。憶測でもなければ不必要な警告でもない、とゴア氏は言う。

ゴア氏の周りには、副大統領時代のスピーチ・ライターだったダニエル・ピンク氏 (『フリーエージェント社会の到来』 の著者) をはじめ、優秀なスタッフが数多くいる。ダニエル・ピンク氏はフリーとなって離れたが、『不都合な真実』 を構想したスタッフなど、今もゴア・チームは健在だ。

将来のビジネスを考えていく際、ゴア氏の示唆に富んだ予測は大いに参考になるはずだ。ビジネスや政治に関わる全ての人々に本書を推薦したい。