「老後生活資金問題には、誰もが強い関心を持っています。」「関連する制度が複雑であるために、問題がどこにあるのか、どうやって解決策を見出したらよいのかが、分かりにくい状態にあります。」と述べて、こうした問題の見取り図を描き、生涯現役で働くことのできる社会のあり方を考える目的で書かれた本があります。
本日紹介するのは、1940年生まれ、東京大学工学部卒業、大蔵省に入省し、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得、一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学ファイナンス研究科教授を経て、現在は早稲田大学ビジネスファイナンス研究センター顧問、一橋大学名誉教授の野口悠紀雄さんが書いた、こちらの書籍です。
野口悠紀雄『年金崩壊を生き抜く「超」現役論』(NHK出版新書)
この本は、「人生100年を生き抜くのは、決して容易なことではありません」としたうえで、自分がいま人生のどのステージにいるかを直感的に把握するための「人生時計」を紹介し、組織に頼らない生き方や新しい働き方をしてきた著者の経験を公開している書です。
本書は以下の7部構成から成っています。
1.老後資金2000万円問題の波紋
2.年金70歳支給開始だと3000万円不足
3.労働力減少を補うのは高齢者
4.高齢者が働ける社会制度を
5.高齢者はどう働けばよいか
6.高まるフリーランサーの可能性
7.私自身の経験を振り返って思うこと
この本の冒頭で著者は、老後資金2000万円不足問題について、その背景を考察しています。とくに就職氷河期世代と言われる団塊ジュニアが高齢者になる2040年頃に、生活保護の急拡大など、日本社会の時限爆弾になる、と警鐘を鳴らしています。
但し、問題になるのは就職氷河期世代のみではなく、同じように非正規雇用で働く人たちが高齢化した時に、とても年金だけでは生活できず、社会に対する不満から治安を揺るがす事件が頻発するリスクがある、ということです。
続いて、以下の人口構造による変化から、年金70歳支給開始になる可能性が高く、その場合の老後資金不足は3000万円になる、と著者は言います。
◆ 2020年から2040年の20年間で労働力人口(15~64歳)は、7,406万人から5,978万人へ(0.807倍)
◆ 2020年から2040年の20年間で65歳以上人口は、3,619万人から3,921万人へ(1.083倍)
現役世代の負担は確実に増えるはずなのに、「大幅な負担増は必要ない」という政府見通しはどう考えても不思議な結論だ、と本書では分析しています。
次に、「日本の労働力人口」に焦点を当て、2040年までに1,300万人減少する、と著者は警告しています。
この本では、年齢階層別の労働力人口と労働力率を分析し、「労働力減少を救うのは高齢者しかない」と提言しています。まず、2015年時点の現状は以下の通り。
◆ 15歳~64歳の労働力率76.1%、労働力人口58,780千人
◆ 65~69歳の労働力率42.8%、労働力人口4,130千人
◆ 70歳以上の労働力率13.9%、労働力人口3,340千人
◆ 労働力人口合計(15歳以上)66,250千人(労働力率59.6%)
つまり、年金の支え手である労働力人口は、約6,600万人で、これは15歳以上人口の約6割に当たります。
これが2040年には、このままの年齢階層別労働力率だと仮定すると、労働力人口は次のようになってしまいます。
◆ 15歳~64歳の労働力率76.1%、労働力人口45,467千人
◆ 65~69歳の労働力率42.8%、労働力人口3,879千人
◆ 70歳以上の労働力率13.9%、労働力人口4,185千人
◆ 労働力人口合計(15歳以上)53,531千人(労働力率54.1%)
労働力人口は、2015年の66,250千人から2040年の53,531千人へ、約1,300万人の減少となります。
さらに、2060年の推定も掲載されていて、以下の通り、労働力人口はさらに1,000万人減って、4,300万人(労働力率51.6%)という恐るべき数字になります。
◆ 15歳~64歳の労働力率76.1%、労働力人口36,454千人
◆ 65~69歳の労働力率42.8%、労働力人口2,451千人
◆ 70歳以上の労働力率13.9%、労働力人口4,120千人
◆ 労働力人口合計(15歳以上)43,026千人(労働力率51.6%)
これは「人口の約半分の人が働いて、14歳以下の子供と65歳以上の高齢者を支える(支える大半は高齢者の方)社会」ということで、これでは日本経済が停滞し、縮小均衡しか将来図が描けなくなってしまいます。
ではどうするか?この本では、➀女性の労働力率を上げる、②外国人労働者の受け入れを増やす、③高齢者の労働力率を上げる、という3つの対策を挙げて、その効果を推定しています。
すべてを実施する必要がありますが、最も効果が大きいのが3つ目の「高齢者が働くこと」です。著者の提言は、労働力率を65歳~69歳で74.8%(現在の15歳~64歳並み)、70歳以上で34.7%(3人に1人は働く)にすれば、15歳以上全体の労働力率6割が維持できて、2040年、2060年の労働力人口を、現状の推定値より、800~900万人増やすことができます。
それでも、2060年には、2015年時点よりは1,400万人以上も労働力人口は減少するので、女性の労働力率引き上げと外国人労働者の受け入れ拡大を同時に進める必要があります。
経済成長は、労働力人口の増加と生産性の上昇の掛け算で達成されるので、日本の人口構造から必然となる「労働力人口の減少」問題には、緊急に取り組む必要があるのです。
本書の中で著者は、「高齢者が働ける社会制度」を作る必要があると説いています。原則として、70歳までは働くこと、70歳を超えても3人に1人は元気で働ける社会にすることが大切です。
私も、年金支給開始は70歳となることは避けられないと考えています。そうした中でいかに人生設計を作っていくか、拙著『定年後不安 人生100年時代の生き方』(角川新書)をぜひ併せてご参照ください。本書と全く同じ問題意識で、解決策が書かれています。
本書の後半で著者は、高齢者がどう働けばいいのかという視点で、フリーランサーとして働くという可能性が拡大すると述べています。
アメリカではすでにシェアリング・エコノミーの拡大に伴い、2019年で5,670万人(全就業者の35%)がフリーランサーとして仕事をしています。最近時5年間で370万人も増えているそうです。(by 『Freelancing in America 2018』)
「フリーランサーとしての働き方は、ある意味での先祖返り」だと著者は言います。産業革命以前の時代の就労は、個人で独立して働くか、家族企業で働く場合が大半でした。
産業革命による生産方式の転換で、現在のような大組織で働く形態に変化してきたのです。製造業はとくに顕著でしたが、現在のアメリカはサービス業主体で、情報、金融、専門的職業では自営業比率が高まっています。
著者は、フリーランサーの準備をしっかり行うこと、フリーランサーを支援する社会制度を構築することを提言しており、これが高齢者が働くうえで最も必要なことでしょう。
本書の最後で著者は、自らの経験で「人生時計」という考え方を披露しています。ぜひ、この本を手に取って、じっくりお読みになることを薦めます。
あなたも本書を読んで、年金崩壊時代を生き抜く「超」現役論を学び、実践してみませんか。
2020年6月17日に、YouTubeチャンネル『大杉潤のyoutubeビジネススクール』【第128回】経済学者が説く「超現役論」にて紹介しています。
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では、今日もハッピーな1日を!