書評ブログ

『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』

世界で唯一、修士号・博士号を授与できる美術系大学英国ロイヤルカレッジオブアート(RCA)「グローバル企業の幹部トレーニング」に力を入れており、世界のエリートがこぞって学んでいると指摘している本があります。

 

本日紹介するのは、慶応義塾大学大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了の後、電通、ボストン・コンサルティング・グループを経て、コーン・フェリー・ヘイグループに参画した山口周さんが書いた、こちらの書籍です。

 

山口周『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』(光文社新書)

 

この本は、「なぜ、世界のエリートは『美意識』を鍛えるのか?」という大きな問いに対して、様々な角度から考察し、結論を提示している書です。

 

 

本書は以下の7部構成から成っています。

 

1.論理的・理性的な情報処理スキルの限界

2.巨大な「自己実現欲求の市場」の登場

3.システムの変化が早すぎる世界

4.脳科学と美意識

 

5.受験エリートと美意識

6.美のモノサシ

7.どう「美意識」を鍛えるか?

 

 

この本の冒頭で著者は、大きな問いに対する答えとして、忙しい読者のため、に次の3つの結論を紹介しています。

 

◆ 論理的・理性的な情報処理のスキルの限界が露呈しつつあり、「正解のコモディティ化」が起きている

◆ 世界中の市場が「自己実現欲求的消費」へと向かいつつある

◆ システムの変化の制定が追いつかない状況が発生してくる

 

 

現在の世界はVUCA(Volatility = 不安定、Uncertainty = 不確実、Complexity = 複雑、Ambiguity = 曖昧)と呼ばれる状況で、要するに先が読めない時代です。

 

そうした中で、「論理と理性」だけで解決策を考えると、みな同じ答えに辿り着いて、コモディティ化が起こり、かつ有効な手立ても示せません。

 

そこで全体を直感的にとらえる感性と、「真・善・美」が感じられる打ち手を内省的に創出する構成力や創造力が求められる、と本書では説明しています。

 

 

また、エイブラハム・マズローが提唱した「人間の欲求5段階説」における「自己実現の追求」は、これまで全人口のほんの一握りの人たちのものでしたが、世界中に広まった豊かさが、それをほとんど全ての人々に広げることになった、ということです。

 

自己実現欲求の市場で戦うには、精緻なマーケティングスキルを用いて論理的に「機能的な優位性」や「価格競争力」を形成する能力よりも、人の承認欲求や自己実現欲求を刺激するような感性や美意識が重要になる、と著者は言います。

 

そして、社会の様々な領域で、システムの変化が早く「法整備が追いつかない」という問題が発生しています。

 

こうした状況では、明文化された法律だけを拠り所にして判断を行う「実法廷主義」は極めて危険で、旧ライブドア事件や、一連のDeNAの不祥事(コンプガチャ問題やキュレーションサイトWELQ問題)はその現れと言えます。

 

システムの変化に法律が追いつかないという現在のような状況においては、法そのものの是非も「真善美」に則るものかどうかを問い、批判の対象にする「自然法定主義」による判断や意思決定が必要です。

 

 

著者は日本企業の経営者の「美意識」の低さが、東芝の粉飾決算三菱自動車工業のリコール隠し問題など、現在多くの大企業で起こっている倫理問題の根本原因ではないか、と指摘しています。

 

米国でも同様の状況は生じており、とくに戦略コンサルティング業界とITベンチャー業界の2つは、オウム真理教の階層構造とも酷似した、「美意識」を排除した仕組みに警鐘を鳴らしています。

 

私はその最たるものが、とくにITベンチャーの勝ち組と呼ばれる世界的な寡占企業が、いずれも従業員を倉庫で最低賃金で使い倒しながら得た巨大な利益を、「法の抜け道」をかいくぐって複雑なタックスヘイブンのスキームを活用して、ほとんど税金として社会に還元しない仕組みにしている現状に、象徴的に表れているのではないかと感じています。

 

そうしたスキームを世界的な会計会社戦略系コンサルティング会社が、勝ち組IT企業に提案して、莫大な報酬を得ている、ということです。それを告発したのが「パナマ文書」ですが、今後は消費者もバカではないので、経営者の「美意識」や企業の理念を見て、モノやサービスを買うようになるでしょう。

 

 

では、著者が大切だと提唱する「真・善・美」の本質とは何でしょうか?「真」とは、「論理から直感」という転換で、それは意思決定基準を「外部から内部」へと転換することだ、と言います。

 

「善」とは、「法律という外部規範」から「道徳や倫理という内部規範」への転換が必要、ということです。

 

 

最後に「美」とは、「市場(顧客)」という外部から、自分の「美意識」という内部への、判断基準の転換が求められている、ということです。

 

いずれも、主観的な「内部のモノサシ」を持つことが大切であり、だからこそ世界のエリートは「美意識」を鍛えている、というのが著者がこの本で説いていることです。

 

 

自分の内部へ意識を向かわせ、今へ心を集中させるトレーニング「マインドフルネス」であり、だからこそグーグルで最も人気の研修となり、世界のトップ企業のみならず、ハーバードをはじめ世界のトップ大学・大学院でも取り入れられているのでしょう。

 

 

あなたも本書を読んで、「生産性」「効率性」といった外部のモノサシではなく、「真・善・美」や「幸福感」のような内在的に判断する「美意識」という内部のモノサシを持つきっかけにしてみませんか。

 

 

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では、今日もハッピーな1日を!