書評ブログ

牧野知弘『空き家問題』(祥伝社新書)

牧野知弘氏は東京大学経済学部を卒業しボストン・コンサルティング・グループ、三井不動産に勤務し、J-REATの仕事をしてきた不動産のプロフェッショナルだ。

 

本書は、これまで多くの人々が薄々は感づいていた、かつての優良住宅地に多くみられる「空き家問題」にスポットを当て、正面からテーマとして摂り上げた衝撃の書だ。

 

日本の少子高齢化の進展は世界の歴史上、例を見ない速度で急激に進行しつつあり、今後も更に加速することは間違いない。人口は減り始める一方、高齢者の数と割合が急激に上がってくる。

 

世帯数は、人口が減り始めた後も単身者世帯の急増により増加し続けていたが、2019年(平成31年)をピークに減少に転じて行くことが、国立社会保障・人口問題研究所の推計により発表された。

 

以上のような状況と、住宅着工の見通しを総合して推計すると、牧野氏は今後、日本の住宅事情や不動産市場は以下のように大きく変貌すると見ている。

 

1.現在の空き家757万戸(空き家率13.1%)は、2020年に1,000万戸(空き家率15%超)に達する
2.空き家の中でも賃貸用や売却待ちでない、その他住宅の空き家が急増する
3.今後は首都圏で進む高速高齢化現象に伴い、首都圏が空き家先進地域になる
4.地方都市の賃貸住宅は空室の嵐となる
5.空き家が放置されるのは固定資産税負担が6倍に増えるため
6.地方都市でコンパクトシティ構想が進む

 
7.都心マンションは競合による地価上昇に加え、建設費の高騰で売れなくなる
8.建設費は鉄筋工、型枠工など技能労働者不足とトラック不足、資材高騰で上昇が続く
9.空き家急増による住宅ストック過剰から不動産のコモディティ化が進む
10.首都圏で病院と介護施設が大幅に不足する
11.空き家から空き自治体へ、1,800自治体の約半数896自治体が消滅する

 

日本の人口構造の推移と、日本の住宅着工同校や不動産マーケットの予測を勘案すると、以上のような現象が近い将来に必ず起きてくると牧野氏は主張する。空き家1,000万戸のインパクトは大きく、日本の地価は下落していく、というのが筆者の結論だ。

 

したがって、住宅を持つということはまはやステータスではなく、固定資産税負担という重荷を背負う「やっかいもの」という見方さえ、されてくる。不動産のコモディティ化が進むということだ。

 

今後の少子高齢化社会で、住宅をどう考え、住まい方や生き方を考える上で多くの示唆が得られる一冊だ。ビジネスパーソンだけでなく、全ての方々に本書の一読を薦めたい。