書評ブログ

『人類と病-国際政治から見る感染症と健康格差』

「人類の歴史は病との闘いだ。ペストやコレラの被害を教訓として、天然痘を根絶し、ポリオを抑え込めたのは、20世紀の医療の進歩と国際協力による。」と述べいて、国際社会の苦闘をたどり、いかに病と闘うべきかを論じている本があります。

 

 

本日紹介するのは、1981年広島生まれ、東京大学法学部第3類卒業、東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学、首都大学東京法学政治学研究科准教授などを経て、現在は東京都立大学法学政治学研究科教授詫摩佳代さんが書いた、こちらの書籍です。

 

 

詫摩佳代『人類と病-国際政治から見る感染症と健康格差』(中公新書)

 

 

この本は、「なぜ、感染症や非感染症疾患は我々の脅威であり続けているのか?特効薬が登場しても、アクセスが容易でないのはなぜか?」と問いかけ、人類と病との闘いを読み解いていくことを試みている書です。

 

 

 

本書は以下の6部構成から成っています。

 

 

1.感染症との闘い-ペストとコレラ

 

2.二度の世界大戦と感染症

 

3.感染症の「根絶」-天然痘、ポリオそしてマラリア

 

4.新たな脅威と国際協力の変容

 

5.生活習慣病対策の難しさ-自由と健康のせめぎ合い

 

6.「健康への権利」をめぐる闘い-アクセスと注目の格差

 

 

 

この本の冒頭で著者は、「感染症と人類社会との関わりは長い。紀元前から現在に至るまで様々な感染症が人類社会に打撃を与えてきた。感染症は人類を最も苦しめてきた『病』といってよい。」と述べています。

 

 

 

そして、ペストコレラに焦点を当て、その二つがどのようなインパクトを社会にもたらしたのか、人類はそれにどのように対処してきたのかを分析しています。ポイントは以下の通り。

 

 

◆ 感染症の大流行が社会に与える影響は、戦争のそれとよく似ている

 

◆ 強硬な隔離政策と反発

 

◆ 不衛生な環境がコレラ感染拡大と関係がある

 

◆ 公衆衛生インフラ整備の必要性

 

 

 

◆ 国際保健会議の開催

 

◆ 国際衛生協定の締結

 

◆ 赤十字社の設立

 

◆ 科学技術(医学)と公衆衛生インフラの重要性

 

 

 

また、ペストに襲われ、閉鎖された都市の様子を描いた、フランスの作家・アルベール・カミュが1947年に発表した『ペスト』(新潮文庫)を紹介しています。

 

 

 

 

続いて、二度の世界大戦において、人類はどのように感染症と闘ったのか、その経験からいかに国際的な保健協力の枠組みが確立されたのかを考察しています。

 

 

 

マラリア、スペイン風邪、インフルエンザ、チフスなどとの闘いやペニシリンなど薬の開発についても記載されています。

 

 

 

本書の中盤では、WHO(世界保健機関)の設立経緯のほか、天然痘、ポリオ、マラリアという「3つの感染症対策プログラム」の様子を紹介しています。

 

 

 

なぜ、天然痘は根絶に成功し、マラリアとポリオはまだ根絶されていないのか。その背景には、ワクチンや治療法の発見だけではなく、国際政治上の問題も関係している、と著者は述べています。

 

 

 

次にこの本で最も注目すべき、「新たな脅威と国際協力の変容」と題して、21世紀の社会において、エイズ、SARS、エボラ出血熱、新型コロナウイルスなど、新たに脅威として加わった感染症について考察しています。

 

 

 

厚生労働省によれば、1970年代から今日まで、30以上の新興ウイルス感染症が新たに発見されている、ということです。「1日に大量の航空機が大陸間を飛び回っている現代では、どこかで感染症の大流行が始まれば、その影響は世界大となる。」と著者は言います。

 

 

 

そして以下の4つの感染症について、流行の分析や対処法に関する教訓を整理しています。

 

 

◆ エイズ

 

◆ SARS

 

◆ エボラ出血熱

 

◆ 新型コロナウィルス

 

 

 

注目すべきは今回の「新型コロナウイルス」への対応について、WHOへの中国の政治的な影響力や、中台関係、米中関係など、国際政治の争点が連動していること、と著者は分析しています。

 

 

 

つまり、感染症をめぐる対応に、国家間対立や国際社会のパワーバランスが大きく投影されているということで、それはグローバル化時代の感染症の以下の2つの特徴による、と本書では説明しています。

 

 

◆ 国家間の相互作用や人の移動が頻繁に行われ、一地域で発生した感染症が世界各地に瞬く間に広がり、経済、産業、安全保障等、多方面にインパクトを与える

 

◆ 感染症が各国の安全保障に影響を与えうるため、感染症に対して、政治指導者による、政治的な関与が増え、感染症対策に国際政治が反映される

 

 

 

中国は近年、保健協力への熱意を強めていて、西アフリカでのエボラ出血熱の大流行へも積極的に対応したり、中国製医薬品の活用に関する協定を締結するなど、WHOとの関係強化に力を入れてきた、と著者は解説しています。

 

 

 

米中の対立など、現在は厳しい緊張関係が予想されますが、共に感染症と闘うことで、関係国間の信頼を育み、緊張する関係を友好的なものへと変えることができれば望ましい、と本書では述べています。

 

 

 

この本の後半では、生活習慣病対策の難しさについて、「自由と健康とのせめぎ合い」という視点で述べられています。危険因子として「喫煙」「塩分・糖分・アルコールの過剰摂取」「運動不足」が挙げられますが、自由な経済活動と消費行動、ライフスタイルとの兼ね合いや、業界団体の抵抗など、難しい現状が紹介されています。

 

 

 

最後に、ワクチンや治療法がすべての人々に行き渡らないなどの「健康格差」の問題が提起されています。

 

 

 

途上国内部の問題、知的財産権を保護する国際枠組み、先進国の政府や製薬会社の利害関係など、様々な複雑な問題を紹介しています。

 

 

 

本書は、人類の感染症との闘いをテーマを、国際関係という視点で広く考察した良書で、ぜひ一読をお薦めします。

 

 

 

2020年6月25日に、YouTubeチャンネル『大杉潤のyoutubeビジネススクール』【第136回】国際政治学の専門家から見た「人類と病」にて紹介しています。

 

 

 

 

 

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では、今日もハッピーな1日を!