書評ブログ

『採用学』

「主観や慣習、勘を排した視点に立てば最適な人材を確保でき、企業のイメージアップにもつながる。」と提唱している本があります。

 

 

本日紹介するのは、全国90,000人の人事パーソンが選んだ「日本の人事部HRアワード2016」にて、書籍部門最優秀賞を受賞した、服部泰宏・横浜国立大学准教授が書いた、こちらの書籍です。

 

 

服部泰宏『採用学』(新潮選書)

 

 

この本は、以下にあるように「面接の常識」を疑い、採用と育成のつながりを重視すれば、まったく新しい地平が見えてくるとする、「採用」を科学的な手法で分析した書で、新しい学問領域「採用学」を切り拓くものです。

 

 

◆ 主観や慣習、勘を排した視点で選考せよ

 

◆ コミュニケーション能力は重視するな

 

◆ 人は見た目じゃない

 

◆ お祈りメールは送らない

 

◆ 減点方式で採れるのはそこそこの人

 

 

 

本書は次の7部構成から成っています。

 

 

1.「マネーボール」で起きたこと

 

2.「良い採用」とは何か?

 

3.ガラパゴス化している日本の採用

 

4.なぜ、あの会社には良い人が集まるのか

 

5.優秀なのは誰だ?

 

6.変わりつつある採用方法

 

7.採用をどう変えればいいのか

 

 

本書の冒頭で著者は、米国カリフォルニア州オークランドを本拠地にするMLB球団オークランド・アスレチックスドラフト戦略選手育成を描き、映画にもなった『マネーボール』を、「採用の成功事例」として紹介しています。

 

 

この『マネーボール』の物語とは、科学的手法に基づくドラフト戦略や若手選手の育成によって、極めて資金力の乏しい弱小チームがメジャーリーグ屈指の名門球団にまでなったサクセス・ストーリーです。

 

 

そこで描かれている、データ重視でチームへの貢献度を測る指標とは、これまで米メジャーリーグの球団で、どこも重視していなかった、「出塁率」(とくに四球の多さ)でした。

 

 

要するに、打率や打点のように偶然性に左右される要素の強い数字よりも、確実にチームに貢献するデータを重視したのです。ヒット性の打球をファインプレーでアウトにされることで変わってくる打率や、前にランナーがいるかどうかで変わってくる打点よりも、選球眼の良さで四球によって出塁する方がチームに確実に貢献する、という考え方です。

 

 

また、投手なら「被長打率、奪三振、与四死球」のデータを重視しました。

 

 

こうした事例と同様に、「採用」についても、これまで「常識」とされてきた方法を見直し、企業は「科学的な分析手法」を採り入れるべきだ、というのが本書で最も言いたいことです。

 

 

まず、採用の流れは、以下の3つの段階に分かれます。

 

 

◆ 募集段階-企業と求職者の「出会い」のフェーズ

 

◆ 選抜段階-企業と求職者の「相互評価」

 

◆ 定着-内定・入社・戦力化

 

 

こうした「募集⇒選抜⇒定着」という、採用の流れの中で、「個人が組織に参入し、そこでうまくやっていくためには少なくとも二つのマッチングが必要になる」という、アメリカの産業組織心理学者ジョン・ワナウスの採用研究を、本書では紹介しています。

 

 

◆ 個人が会社に対して求めるものと、会社が提供するもの(仕事特性、雇用条件、組織風土など)とのマッチング<期待のマッチング>

 

◆ 求職者がもっている能力と、企業が必要とする能力とのマッチング<能力のマッチング>

 

 

さらに著者の服部さんは、日本での採用研究を積み重ねる中で、ワナウスが挙げる2つのマッチング(「期待」および「能力」のマッチング)に加えてもう1つ、日本独自の「フィーリングのマッチング」がある、と指摘しています。

 

 

この「フィーリング」とは、会社説明会での採用担当者やリクルーターの様子とか、採用面接での面接官の感じや企業の雰囲気などにより、求職者と採用担当者がお互いに、主観的な「相性の擦り合わせ」を行うものです。

 

 

具体的には、相互に次のように感じるかどうかという、「フィーリング」のマッチングです。

 

 

◆ 「この相手とは合いそうだ」

 

◆ 「一緒に働いてみたい」

 

 

 

本書の中盤では、日本独自のガラパゴス化した「採用方式」の歴史的な変遷や、インターネットの普及に伴うWEB募集および選考方法についての「4つの問題点」を指摘しています。

 

 

1.企業と求職者の間の相互期待が曖昧なままになっている

 

2.選抜する段階における能力評価の基準が抽象的で各社同一になっている

 

3.採用活動がエントリー数拡大に向かい、企業の採用コストが増大している

 

4.企業の採用活動の活発化により、学生の就職活動がヒートアップしている

 

 

とくに本書で指摘している問題点は、日本企業の採用担当者の間で信じられてきた、「大規模候補者群仮説」と呼ばれるものです。

 

 

これは、「エントリー数が多くなればなるほど、候補者の中に優秀な人材が含まれる割合が多くなる」という仮説です。

 

 

各企業が、こうした「大規模候補者群仮説」を信じて、エントリー獲得競争を繰り広げ、大量の不合格者を出すという、効率が悪くコストのかかる採用活動を行っています。

 

 

しかも、選抜の段階で、大量の面接による選抜を、以下のような各社で画一的且つ曖昧な基準で行っていることが問題だ、著者は言います。(カッコ内は重視する企業の割合)

 

 

◆ コミュニケーション能力(82.8%)

◆ 主体性(61.1%)

◆ チャレンジ精神(52.9%)

◆ 協調性(48.2%)

◆ 誠実性(40.3%)

 

 

こうした選抜基準について、本書では、「変わる資質」と「変わらない資質」をよく見極め、分けて考えることが重要だとしています。また、選考において「何を見ないか」もポイントでしょう。つまり、「選抜とは推測である」とも言えるのです。

 

 

本書の後半では、変わりつつある採用方法や、今後どのように採用を変えていくべきかの提言も行っています。

 

 

この本は、日本における採用を分析研究して、「採用学」という新たな学問領域を打ち立てた書として意義深いものと言えるでしょう。

 

 

全国の企業において採用および人材育成にかかわるすべての人にとって必読の書として、本書を心から推薦します。

 

 

 

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では、今日もハッピーな1日を

 

 

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