書評ブログ

『プロティアン 70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術』

「人生100年時代、神プロテウスが自在に姿を変えたように、現代を生きる私たちは、社会や環境の変化に応じて、柔軟に働き方を変えていく『プロティアン・キャリア』を実践しなくてはなりません。」と述べている本があります。

 

 

本日紹介するのは、法政大学キャリアデザイン学部教授、社会学博士(専門:キャリア論)田中研之輔さんが書いた、こちらの書籍です。

 

 

田中研之輔『プロティアン 70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術』(日経BP社)

 

 

この本は、自分のキャリアを変幻自在に磨き上げ、プロティアン・キャリアを形成して70歳まで第一線で働き続けることができるようにするための書です。

 

 

 

本書は以下の7部構成から成っています。

 

 

1.なぜいま、プロティアンなのか-終身雇用は限界を迎えた

 

2.「キャリア資本」の構築-組織を活かし、変幻自在に生きる

 

3.「ビジネス資本」の蓄積-仕事に没頭し、自己を磨き続ける

 

4.「社会関係資本」の形成-本当の豊かさを育てる

 

5.「経済資本」に転換する

 

6.プロティアン・キャリアのもう一つの道-“ 複業 ” で働き方をアップデート

 

7.対談: 副業研究科・西村綜一朗

 

 

 

この本の冒頭で著者は、PROTEAN(プロティアン)には、「変化し続ける」「変幻自在な」「一人数役を演じる」という意味がある、と述べています。

 

 

プロティアンという言葉の語源は、ギリシャ神話に出てくる、思いのままに姿を変える神プロテウスにあります。

 

 

神プロテウスは、火にもなり、水にもなり、ときには獣にもなったりするなど、環境の変化に応じて変幻自在に姿を変えます。環境の変化に応じて、自分の意思で、自由に姿を変えることができるのです。

 

 

 

つまり、人生100年時代、私たちに求められるのは、キャリアを組織に預けるのではなく、自分でデザインしていくこと。この「プロティアン・キャリア」を軸に「生涯を通じて変身し続ける術」について考えるのが本書の狙いです。

 

 

 

この本は次のような悩みを抱えるビジネスパーソン読者として想定しています。

 

 

◆ 働きながら生計を立てているものの、いまの稼ぎでは十分だと感じられず、今後のキャリアに不安を抱く人

 

◆ 社会変化に適応するために、何らかのキャリア形成の必要性を感じている人

 

◆ 無限に広がる選択肢の中で、自分らしい働き方や生き方を見失っている人

 

◆ どうしたら自分らしく、幸せを感じながら生きることができるのかと悩んでいる人

 

 

 

次に、プロティアン・キャリアと従来のキャリア論との違いですが、プロティアン・キャリアでは次の3つの視点を大切にしています。

 

 

◆ キャリアは組織に預けるものではなく、自分で育て、形成する

 

◆ キャリアは昇進などの結果ではなく、生涯を通じた全過程である

 

◆ キャリアは変化に応じて、自分で変えることができる

 

 

つまり、キャリアは「結果」ではなく「過程」なのです。

 

 

 

続いて、キャリア理論の変遷を、関西学院大学・松本雄一教授の論文「キャリア理論における能力形成の関連性」をもとに以下のように整理しています。

 

 

◆ 1890年代 社会構造アプローチ(社会の階層が職業決定に大きな影響)

 

◆ 1920年代 個人特性アプローチ(職業選択に関する意思決定プロセスを重視)

 

◆ 1950年代 キャリアステージアプローチ(ビジネスパーソンのキャリアはいくつかのステージから形成される)

 

 

◆ 1970年代 ライフサイクルアプローチ(心理学者・エリクソン教授の発達段階をベースに人生全体の発達段階の中でキャリアを分析)

 

◆ 1990年代 バウンダリレスアプローチ(組織という境界=バウンダリの中だけでなく、組織を跨いで境界を行き来するキャリア)

 

◆ 2000年代 プロティアンアプローチ(キャリアは、①個人が創造、②心理的成功の獲得、③仕事には遊びの要素があり生活との統合が可能)

 

 

 

さらにこの本では、ドナルド・スーパー教授「キャリア発達理論の14の命題」や、ダグラス・ホール教授が出版した書籍『The Career Is Dead』を紹介しています。

 

 

 

「プロティアン・キャリア」という考え方はもともとダグラス・ホール教授が提唱したもので、「プロティアン・キャリアは、組織の中よりもむしろ個人によって形成されるものであり、時代と共に個人の必要なものに見合うように変更されるものである」としています。(『プロティアン・キャリア』(ダグラス・ホール著・亀田ブックサービス)より)

 

 

 

また、「人生100年時代」ブームを作ったリンダ・グラットン教授『ライフ・シフト』(東洋経済新報社)も引用し、「長寿時代には人生の設計と時間の使い方を根本から見直す必要があるのだ」「あとで変化を突きつけられるのではなく、いま変化を予期して行動することだ」と紹介しています。

 

 

 

そして、J.D.クランボルツ教授『その幸運は偶然ではないんです!』(ダイヤモンド社)を抜粋し、「計画された偶発性理論」エッセンスである「5つの行動特性」を以下のように紹介しています。

 

 

◆ 好奇心(Curiosity)

 

◆ 持続性(Persistence)

 

◆ 柔軟性(Flexibility)

 

◆ 楽観性(Optimism)

 

◆ 冒険心(Risk Taking)

 

 

 

 

この後、中盤では本書のメインとも言える「キャリア資本」の考え方が提示されています。

 

 

これは、キャリアを貸借対照表に落とし込むという考え方で、表の左側に、「無形資産」として、①生産性資産(ビジネススキル)、②活力資産(健康・家族など)、③変身資産(自己理解・人脈)の3つと、「有形資産」(預貯金・株式・不動産など)を整理します。

 

 

表の右側は、「投資負債」(キャリア形成のための自己啓発など投資)のほか、「キャリア資本」が3つあり、①ビジネス資本(キャリア形成を通じて得られる知識・スキル・立ち居振る舞いなど)、②社会関係資本(信頼関係、ネットワーク)、③経済資本(マネタイズ力)です。

 

 

この「キャリア資本」を戦略的・計画的に蓄積することが、プロティアン・キャリアの形成術なのです。

 

 

 

詳細はぜひ、本書を直接手に取って92ページの図9および前後の解説をお読みください。

 

 

 

貸借対照表の左側の「有形資産」と、右側のキャリア資本の中の「経済資本」との違いが、両方とも「金銭や諸々の財産」となっていて、分かりにくいのですが、私の理解では、「キャリア資本」の3つはすべて「稼ぐ力」と考えており、短期間に「お金」に変えることができるビジネス力ということでしょう。

 

 

それを、①ビジネス資本は専門性や能力・スキル、②社会関係資本はネットワーク(信頼できるビジネスパートナーやファン・顧客基盤)、③経済資本はマネタイズ力(お金に変える仕組み・ビジネスモデル)として、整理しているのではないかと思います。

 

 

 

この考え方は、私が昨年4月に出版した『定年後不安 人生100年時代の生き方』(角川新書)と共通する考え方で、私の本では、人生100年時代に生涯現役として稼ぎ続けるための4つのスキルとして、①時間術、②コミュニケーション術、③情報リテラシー、④健康法を挙げ、これらを戦略的・計画的に磨くことを提唱しました。

 

 

 

これは本書でいう「キャリア資本」を戦略的・計画的に蓄積することにより、プロティアン・キャリアを形することとまったく同じコンセプトです。

 

 

 

この本の最後には、著者の田中研之輔さんと複業研究家西村創一朗さんとの対談が掲載されています。西村さんは、首都大学東京を卒業後、リクルートを経て、パラレル・キャリアの実践と普及を促進するコンサルタントとして活躍、複業に関する著書もあります。

 

 

 

本書の巻末の「おわりに」で著者は、「キャリアに向き合うということは、働き方や生き方を見つめること」と述べています。

 

 

 

そういう意味で本書は、「生涯を謳歌する生き方」のヒントを多く与えてくれる書で、キャリアに悩む方々にぜひお薦めしたい一冊です。

 

 

 

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では、今日もハッピーな1日を!