書評ブログ

『ボクはやっと認知症のことがわかった』

「長谷川式簡易知能評価スケール」という認知症の簡易診断ツールを開発した精神科医で、認知症研究の第一人者が自ら認知症となり、医師・研究者と患者という両方の立場から、認知症の人やその家族が暮らしやすく、生きやすい日本になるために書かれた本があります。

 

 

本日紹介するのは、1929年生まれ、東京慈恵会医科大学卒業、「長谷川式簡易知能評価スケール」を開発、日本で初の国際老年精神医学会を開催、2004年に「痴呆」から「認知症」に用語を変更した厚生労働省の検討会委員も務めた長谷川和夫さんが書いた、こちらの書籍です。

 

 

長谷川和夫・猪熊律子『ボクはやっと認知症のことがわかった』(KADOKAWA)

 

 

この本は、これまで何千人もの患者を診てきた認知症の専門医である著者が、「認知症をになって何を思い、どう感じているか」、当事者となってわかったことを伝えたいと思ってつくられた書です。

 

 

 

本書は以下の7部構成から成っています。

 

 

1.認知症になったボク

 

2.認知症とは何か

 

3.認知症になってわかったこと

 

4.「長谷川式スケール」開発秘話

 

5.認知症の歴史

 

6.社会は、医療は何ができるか

 

7.日本人に伝えたい遺言

 

 

 

この本の冒頭で著者は、自分が認知症になったのではないかと思い始めた経緯を、以下の通り紹介しています。

 

 

◆ 自分の体験の「確かさ」がはっきりしなくなった

 

◆ 今日が何月何日の何曜日かがわからなくなる

 

◆「確かさ」が揺らぎ、約束を忘れてしまう

 

 

 

続いて、人生100年時代となり、平均寿命が延びる中で、認知症は誰もがなる病気だとして、次のことを伝えたい、と述べています。

 

 

◆ 年齢を重ねるとともに認知症になる人が増え、百歳を超えると殆どの人が認知症になる

 

◆ 2012年に462万人だった認知症は、2025年には団塊世代が全員75歳以上となり、認知症も700万人に増える

 

◆ 認知症の症状は、同じ日の時間帯でもつねに変化するもの

 

◆ 認知症の人は、悲しく、苦しく、もどかしい思いで生きている

 

 

 

本書の前半では、認知症の定義、著者が認知症になってわかったことを整理して紹介しています。ポイントは以下の通り。

 

 

◆ 認知症は「成年期以降に、記憶や言語、知覚、思考などに関する脳の機能の低下が起こり、日常生活に支障をきたすようになった状態」と定義される

 

◆ 認知症の特徴は「脳の器質的な障害」があり、認知機能が低下していること

 

◆「脳の器質的な障害」とは、脳の神経細胞と、神経細胞同士のつながりが働かなくなってしまうこと

 

◆ 認知症の本質は「いままでの暮らしができなくなること」、すなわち「暮らしの障害」「生活障害」

 

 

 

◆ 最も重要なのは「周囲の人が、認知症の人をそのままの状態で受け入れてくれる」こと

 

認知症は「固定されたもの」ではなく、連続しているもの、変動するもの

 

認知症の人は、同時にいくつものことを理解するのが苦手

 

◆「笑い」が大切

 

 

 

◆ 認知症は「パーソン・センター ド・ケア」が大切

 

◆ デイサービスの入浴サービスは認知症の人にとって快適

 

◆ ショートステイも不安はない

 

◆ 認知症の人を「騙さない」ことが大切

 

 

上記の「パーソン・センター ド・ケア」は、トム・キットウッドが書いた『DEMENTIA RECONSIDERED』(1997年刊)にて提唱されている考え方で、「その人中心のケア」ということです。邦訳も出ていて、こちらの書籍です。

 

 

 

 

この本の中盤には、「長谷川式スケール」開発秘話認知症の歴史が整理・解説されています。詳細についてはぜひ、本書を手に取ってお読みください。

 

 

 

本書の後半では、社会や医療が認知症に対してできることが挙げられ、最後に、著者の長谷川さんが遺言として日本人に伝えたいことが記されています。ポイントは以下の通り。

 

 

◆ 喫茶店のストロングコーヒーを飲むのか最高のひととき

 

◆ 映画や音楽が好き(とくにベートーヴェンの『悲愴』)

 

◆ 認知症が進んでも、喜怒哀楽の感情は最後まで残る

 

 

 

◆ 本が好きで、書斎は「戦場」

 

◆ 耐えること

 

◆ キリスト教の信仰

 

 

 

この本は、認知症研究の第一人者が、自ら88歳で認知症となり、医師の立場と患者の立場の両方から、「認知症の本質」や周囲人々の対処法を説明しているもので、高齢社会が加速する日本で、ぜひ読むべき一冊です。

 

 

 

あなたも本書を読んで、認知症について、理解を深め、自分ごととして考えてみませんか。

 

 

 

2020年5月8日に、YouTubeチャンネル『大杉潤のyoutubeビジネススクール』【第88回】認知症研究の第一人者が語る「自らの認知症」にて紹介しています。

 

 

 

 

 

毎日1冊、ビジネス書の紹介・活用法を配信しているYouTubeチャンネル『大杉潤のyoutubeビジネススクール』の「紹介動画」はこちらです。ぜひ、チャンネル登録をしてみてください。

 

 

 

 

では、今日もハッピーな1日を!