書評ブログ

『人口減少社会のデザイン』

「2050年、日本は持続可能か?」という問題を設定し、AIを活用して行った日本社会の未来に関するシミュレーションと、「人口減少社会のデザイン」の概要を紹介し、そこから浮かび上がってくる今後の課題や展望を論じている本があります。

 

 

本日紹介するのは、1961年岡山市生まれ、東京大学・同大学院修士課程修了後、厚生省勤務、千葉大学教授、マサチューセッツ工科大学客員研究員などを経て、現在は京都大学こころの未来研究センター教授広井良典さんが書いた、こちらの新刊書籍です。

 

 

広井良典『人口減少社会のデザイン』(東洋経済新報社)

 

 

この本は、日立京大ラボのAIが導き出した未来シナリオと選択を紹介し、「都市集中型」か、「地方分散型」か、あるいは「第3の道」はあるのかを論じ、日本社会が転換を図るための「10の論点と提言」を記している書です。

 

 

 

本書は以下の7部構成から成っています。

 

 

1.人口減少社会の意味-日本・世界・地球

 

2.コミュニティとまxひづくり・地域再生

 

3.人類史の中の人口減少・ポスト成長社会

 

4.社会保障と資本主義の進化

 

5.医療への新たな視点

 

6.死生観の再構築

 

7.持続可能sな福祉社会-地球倫理の可能性

 

 

 

この本の冒頭で著者は、現在の日本社会は「持続可能性」という観点で、危機的状況にある、と指摘しています。それは次の3つの観点です。

 

 

◆ 財政あるいは世代間継承性における持続可能性(政府の債務残高が対GDP比200%以上と世界で断トツの高さ)

 

◆ 格差拡大と人口における持続可能性(貧困層の割合増加と非婚化・晩婚化による出生率低下と人口減少の悪循環)

 

◆ コミュニティないし「つながり」に関する持続可能性(社会的孤立に関する世界比較で日本はトップ)

 

 

 

現在の政策を続けていく限り、持続可能性は低く、日本は「破局シナリオ」として、以下の一連の事象が複合的に生じる、と著者は指摘しています。

 

 

◆ 財政破綻

 

◆ 人口減少加速

 

◆ 格差・貧困拡大

 

◆ 失業率上昇

 

◆ 地方都市空洞化&シャッター通り化

 

◆ 買物難民拡大

 

◆ 農業空洞化

 

 

 

今回、著者の研究グループがAIを活用して行った未来予測シミュレーションでは、「都市集中型」か「地方分散型」かという分岐点が最も本質的な対立軸だということです。

 

 

 

そして、日本社会全体の持続可能性を考えていくうえで、ヒト・モノ・カネができる限り地域で循環するような「分散型の社会システム」に転換していくことが決定的な意味を持つ、と本書では解説しています。

 

 

 

「地方分散型社会」のイメージとして、中心部から自動車を完全に排除して歩行者だけの空間にし、人々が「歩いて楽しむ」ことができ、しかもゆるやかなコミュニティ的つながりが感じられるような街になっている「ドイツの都市」(人口10万人のエアランゲン、人口50万人のハノーファー)の例を紹介しています。

 

 

これらドイツの都市は、“ 人間の顔をしたスマートシティ ” であり、AIやI o T 、情報化という方向が、「地方分散型」システム、地域の自立性や持続可能性、人々の生活の質や「幸福」というテーマと結びつき得るということが分かります。

 

 

 

対して、アメリカの都市は完全な自動車中心にできており、ヨーロッパのようなカフェ的空間などのいわゆる「サードプレイス」も少なく、街の “ くつろいだ楽しさ ” や “ ゆったりした落ち着き ” が欠如している、と著者は指摘しています。

 

 

 

日本は「アメリカ・モデル」に従って、建設省(現・国土交通省)の道路交通政策通産省(現・経済産業省)の流通政策により、“ 郊外ショッピング・モール型 ” の都市・地域像が志向されてきた結果、全国の地方都市中心部にシャッター通りが点在する結果になった、ということです。

 

 

 

逆に言えば、今後の人口減少社会のデザインとして、政策の転換を通じて望ましい都市や地域のあり方を実現していけるという可能性を示唆しています。

 

 

 

また、日本で人口減少社会が到来したことについて、本書では「ジャパン・シンドローム」と名付けて英経済誌『エコノミスト』が注目していること、日本の総人口の長期トレンド分析「幸福」というテーマへの関心の高まりなど、広い視野から考察しています。

 

 

 

続いて本書では、少子化をめぐる国際比較や、高齢化の地球的進行、そして21世紀後半のアフリカの人口増加「グローバル定常型社会」(=21世紀は世界人口の増加の終焉と人口高齢化の世紀)という予測を述べています。

 

 

 

この本の中盤以降では、コミュニティとまちづくり、人類史における人口減少、社会保障と資本主義について考察しています。

 

 

 

さらに本書の終盤では、持続可能な医療とは何か、そして超高齢化時代の死生観(死亡急増時代と死亡場所の多様化)について論じています。

 

 

それは「看取り」ということが社会の中で日常的な現象になっていくこと、「生き方」と同じように「逝き方」や「終活」がオープンに議論できるようになってきた社会の変化がある、ということです。

 

 

著者が『ケアを問い直す』という本で「自然な死」について言及したり、医師の石飛幸三さんが『「平穏死」のすすめ』を刊行してベストセラーになるなど、時代の雰囲気も変わりつつあります。

 

 

 

 

作家の五木寛之さんは、私たちは「『団塊死』の時代」という時代状況を迎えつつある、と指摘していて、「『死』は『生』よりも存在感を強めている」と述べています。

 

 

 

そして日本人の死生観には、以下の「三つの層」があるのではないか、と著者は言います。

 

 

◆ 原・神道的な層(自然のスピリチュアリティ)

 

◆ 仏教・キリスト教的な層

 

◆ 唯物論的な層

 

 

 

著者の広井さん自身は、円環的な人生イメージを持っていて、アメリカ映画『バウンティフルへの旅』(1985年)を観て、「自分が生まれ育った場所を、死ぬ前にもう一度見届けたい」という思いは、人間の心の深い部分に根ざした普遍的な願い、と説明しています。

 

 

 

本書の最後で著者は、「グローバル化の先」にある二つの社会について説明しています。1つは「ナショナリズム的な方向」であり、もう1つは「持続可能な福祉社会」と呼ぶべき方向です。

 

 

 

加えて、地球倫理というアプローチ、すなわち「ユニバーサル」という視点を提示しています。

 

 

 

最後に、本書が提起してきた主要な論点以下の「10の論点と提言」として紹介しています。

 

 

1.将来世代への借金の付け回しをやめ、消費税をヨーロッパ並みに引き上げる

 

2.人口減少社会では、「人生前半の社会保障」(=若い世代への支援)が重要

 

3.地域ないし国土の構造として「多極集中」で、“ 歩いて楽しめるまちづくり ” を進める

 

4.都市・農村間の再分配システムを導入する

 

5.企業行動の軸足を「拡大・成長」から「持続可能性」へシフトする

 

 

 

6.「生命」を軸とし、持続可能性に価値を置いた「ポスト情報化」の分散型社会システムを構想する

 

7.高齢化と人口の定常化が地球規模で進行

 

8.持続可能な福祉社会を志向するローカルな経済循環の社会モデルに

 

9.「地球倫理」と呼びうる理念の進化を

 

10.人類史の中で「3度目の定常化」を迎えつつあり、「地球倫理」という精神的・文化的革新が起きる

 

 

 

本書は、AIを活用したシミュレーションで、今後の「人口減少社会のデザイン」を試みたもので、多くの示唆を私たちに与えてくれています。

 

 

 

今後の時代認識をしっかりと持ち、人生の指針とすべき「教科書」として、ぜひ読むべき一冊として、この本を心から推薦します。

 

 

 

速読法・多読法が身につくレポート 『年間300冊ビジネス書速読法「7つのポイント」』 (定価 9,990円)を、こちらのサイトより、大杉潤のメルマガ『ビジネス書10000冊から』へ登録いただければ、無料で差し上げます。こちらをクリックして登録ください!

https://tsuku2.jp/mlReg/?scd=0000049956

 

 

 

 

では、今日もハッピーな1日を!