書評ブログ

『遺伝子の不都合な真実』とは?

人の能力の遺伝を徹底分析して、行動遺伝学の最前線を紹介している本があります。

 

 

本日紹介するのは、慶應義塾大学文学部教授で、教育学博士の安藤寿康さんが書いた、こちらの新書です。

 

 

安藤寿康『遺伝子の不都合な真実-すべての能力は遺伝である』(ちくま新書)

 

 

この本は、うすうす皆が知っているけれど、それをあからさまに口にしたらまずいことになるので言わない、という「不都合な真実」について記した書です。

 

 

例えば、「人間の能力や性格など、心のはたらきと行動のあらゆる側面が遺伝子の影響を受けている」という事実を明らかにしています。

 

 

 

本書は以下の7部構成から成っています。

 

 

1.すべては遺伝子の影響を受けている

 

2.バート事件の不都合な真実-いかに「知能の遺伝」は拒絶されたか

 

3.教育の不都合な真実-あらゆる行動には遺伝の影響がある

 

4.遺伝子診断の不都合な真実-遺伝で判断される世界が訪れる

 

5.環境の不都合な真実-環境こそが私たちの自由を阻んでいる

 

6.社会と経済の不都合な真実-遺伝から「合理的思考」を考えなおす

 

7.遺伝子と教育の真実-いかに遺伝的才能を発見するか

 

 

この本では、「勉強ができるのは生まれつきなのか?」「仕事に成功するための適性や才能は遺伝のせいなのか?」など、IQ、性格、学歴やお金を稼ぐ力まで、人の能力の遺伝を徹底分析しています。

 

 

著者は、誰もがうすうす感じていながら、ことさらに認めづらい「不都合な真実」を、行動遺伝学の最前線から明らかにしています。

 

 

親から子への能力の遺伝の正体を解きながら、教育と人間の多様性を考えることを本書では狙いにしています。

 

 

この本の冒頭で著者は、心理学史の中でもっとも有名なデータねつ造疑惑事件である「バート事件」を採り上げて紹介しています。

 

 

一卵性双生児、二卵性双生児に関する知能検査のデータによって、違った環境で育っていても知能指数は高い相関性を示していて、遺伝による影響が大きいと結論づけたバートの研究結果が、後に大きなデータねつ造疑惑に発展した事件です。

 

 

この事件は、バートの死後も大きな論争を呼びましたが、その議論の中で、データねつ造を主張する科学者の中には、「遺伝が知能指数を決める」ということが、人種差別に直結し、教育の意義・役割を大きく損なうこと、に不都合、あるいは不愉快さを感じるという事実があったことは否定できません。

 

 

したがって、「データねつ造」と断定できる明らかな証拠がないにも関わらず、推定で「ねつ造」だとしている点について、著者をはじめ行動遺伝学の立場にある研究者は大きな違和感を感じた、ということです。

 

 

バートによるデータや研究結果は、捏造かも知れないし、捏造でないかも知れない、つまりシロクロを断定できる明白な証拠はない、というのが、研究者としての正しい立場ではないか、ということです。

 

 

その後本書で続く著者の立場は、IQを初めとする人の能力や性格、行動などについては、遺伝子の影響と、環境要因の影響を両方ともに受けており、しかも遺伝子の影響は世界でふたりとして同じ組み合わせはない、ということです。

 

 

これが、「遺伝も環境も両方論」である行動遺伝学の立場、ということです。さらに「環境」については、「共有環境」「非共有環境」に分けて考える必要があります。

 

 

また、行動遺伝学には以下の3原則があります。

 

 

1.行動にはあまねく遺伝の影響がある

 

2.共有環境の影響がほとんど見られない

 

3.個人差の多くの部分が非共有環境から成り立っている

 

 

遺伝というと、親の能力や性格、行動がそのまま子に引き継がれると誤解する人が大半ですが、影響を及ぼすのはあくまでも親(双方の親)の遺伝子であって、その組み合わせは無数にあります。

 

 

つまり、親の遺伝子をそっくりそのまま引き継ぐことはあり得ず、遺伝子の影響は間違いなくあるが、親のすべての遺伝子そのままではない、というのが真実です。

 

 

本書の後半では、遺伝が社会と経済に及ぼす影響が考察されていますが、読書時間、家庭での勉強時間、勉強への意欲、運動をする、選挙に行く、職業選択、タバコやお酒への依存、人生に幸せを感じる度合い、収入など、私たちのあらゆる行動や生活習慣は、行動遺伝学の研究で、少なくても25%以上の遺伝の影響が報告されています。

 

 

但し、遺伝によって「決まっている」という表現は誤りで、遺伝の影響はどれも50%以下、つまり逆に言えば相対的には非遺伝的な影響の方が多いということです。

 

 

つまり個人差の大きい「非共有環境」の影響が大きいと言うことになります。例えば、収入における遺伝の影響は20~40%と推計されていますが、IQや学業達成が収入に及ぼす影響は30%程度とされています。

 

 

本書の最後は、遺伝子と教育の真実を考察したものですが、遺伝子の民族差や優生思想など、タブーとされている考え方に対して、行動遺伝学の立ち場を説明しています。

 

 

また先日紹介しました、橘玲『言ってはいけない』(新潮新書)で、行動遺伝学の考え方や著者の安藤寿康さんを採り上げていますので、併せてお読みになると理解が深まります。

 

 

あなたも本書を読んで、行動遺伝学を通じて遺伝子が影響を及ぼす行動と文化について考えてみませんか。

 

 

 

速読法・多読法が身につくレポート 『年間300冊読むビジネス力アップ読書法「17の秘訣」』無料で差し上げます。ご請求はこちらをクリックしてください!

 

 

https://jun-ohsugi.com/muryou-report

 

 

では、今日もハッピーな1日を

 

 

50代からの人生設計ができる読書術

無料レポートはこちら »