書評ブログ

『中高年ひきこもり-社会問題を背負わされた人たち-』

「中高年ひきこもりが想像以上に増えている。平成30(2018)年度の内閣府調査では、40歳から64歳までの中高年ひきこもりは、63.1万人とされており、15~64歳のひきこもりの全国の推計数は、115万人である。」と警鐘を鳴らしている本があります。

 

 

本日紹介するのは、NPO法人ホットプラス代表理事、聖学院大学人間福祉学部客員准教授、反貧困ネットワーク埼玉代表藤田孝典さんが書いた、こちらの書籍です。

 

 

藤田孝典『中高年ひきこもり-社会問題を背負わされた人たち-』(扶桑社新書)

 

 

この本は、ひきこもり問題を従来の若者問題、精神医学上の問題という狭い範囲の課題としてではなく、より広範な視点から、社会全体、日本全体に広がる構造的な問題として取り上げている書です。

 

 

 

本書は以下の4部構成から成っています。

 

 

1.中高年ひきこもりとは何か

 

2.中高年ひきこもりの実態

 

3.なぜ中高年ひきこもりが生まれるのか

 

4.中高年ひきこもりにどう向き合えばいいのか?

 

 

 

この本の冒頭で著者は、「ひきこもり」と呼ばれる人々の全体像を述べています。

 

 

 

もともと「ひきこもり」とは、斎藤環氏が「20代後半までに問題化し、6カ月以上自宅にひきこもって社会参加をしない状態が持続しており、ほかの精神障害がその第一の原因とは考えにくいもの」と定義しました。

 

 

 

「ひきこもり」「社会的ひきこもり」と敢えて呼ばれるのは、その原因が精神疾患とは異なることを示すため、としています。

 

 

 

その後2000年代に入り、厚生労働省「ひきこもりガイドラン」を策定、ひきこもり「さまざまな要因によって社会的な参加の場面がせばまり、就労や就学などの自宅以外での生活の場が長期にわたって失われている状態」と位置づけました。

 

 

 

そのほか、特定非営利法人KHJ全国ひきこもり家族連合会では、引きこもり診断名ではなく、「状態像」である、として、多種多様という前提のもと、以下の3つの定義を示しています。

 

 

◆ 6ヶ月以上にわたって状態は大きく変わらず

 

◆ 概ね家庭にとどまり続け

 

◆ 社会(第三者)との交わりを極力避ける状態

 

 

 

そうした中で、「中高年ひきこもり」は、想定外だったため、支援や社会の受け皿が不足しており、相談ができないままに置かれているという特徴があります。

 

 

 

要するに、社会の側にひきこもりを発生させる原因があり、例えば青年期における職場での人間関係やパワハラ、ストレスを原因とするものが多く報告されています。

 

 

 

また、いわゆる「ブラック企業」による労働問題も広く知られるようになってきました。

 

 

 

続いて、「中高年ひきこもりの実態」として、以下の4名の方々が仮名にて、その心情や実際の経験・状況を語っています。

 

 

◆ 香取由美(41歳・女性)

 

◆ 大川良雄(49歳・男性)

 

◆ おがたけ(40歳・Xジェンダー)

 

◆ 吉川礼子(40歳・女性)

 

 

 

本書の後半では、「中高年ひきこもり」が生まれる原因を以下の通り、挙げて、そのメカニズムを考察しています。

 

 

◆ 女性のひきこもりとジェンダー、性的マイノリティー

 

◆ パワハラ、リストラ、ブラック企業など労働問題

 

◆ 不登校からの延長

 

 

◆ 専門相談員の不十分なケア、不適切な対応

 

◆ 発達障害への対応不足

 

◆ 親との関係悪化

 

 

 

この本の最後で著者は、「中高年ひきこもり」にどう向き合えばいいかを提示しています。

 

 

 

その中で強調していることは、まず当事者の発信を聞くこと。そして、画一的な価値観を押し付けるのではなく、ひきこもっている状態やその心情を認めてあげること。

 

 

 

最もしてはいけない対応として、「甘えている」「怠けている」と決めつけ、従来の価値観や社会的規範を強要することだ、と著者は言います。

 

 

 

「中高年ひきこもり」の親には、職業上の明確な特徴があり、それは以下のような職業や社会的立場の人が多いことです。

 

 

◆ 学校の教師など教育関係者

 

◆ 医師、看護師など医療従事者

 

◆ 裁判官、弁護士など

 

◆ 福祉従事者

 

 

 

こうした職業の共通点として、“ 先生商売 ” として権威的で、一つの考え方を教条的に信じていることがあります。また、社会に奉仕する仕事で、いわゆる「支援職」にあたります。

 

 

 

明確な「信念」や「価値観」「倫理観」を持って行う職業だけに、そこから外れた多様な考え方や行動スタイルを認めないというふうになりがちで、それが親子の心の溝を深くしてしまうのでしょう。

 

 

 

今はインターネットが発達している時代なので、在宅のまま社会参加する方法もあり、ひきこもったままでいいのでは、とこの本では述べています。

 

 

 

さらに「ピアサポート」の重要性を提唱しています。「ピア(peer)」とは、同じような立場にある仲間という意味で、当事者同士の支援の仕組みが「ピアサポート」です。

 

 

 

2011年の東日本大震災の後に、復興支援として、阪神淡路大震災や中越地震などで被災した人たちが大勢、ボランティアで入り、大きな力になったことで、「ピアサポート」の重要性が認識されるようになったそうです。

 

 

 

「ひきこもり」は社会全体の問題であると受け止め、「当事者のことは当事者が決める」という方法が効果的であることを改めて本書は教えてくれます。

 

 

 

当事者による連帯と自主運営の組織として、以下のような活動をこの本では紹介しています。

 

 

◆ ひ老会(ひきこもりと老いを考える会):代表・ぼそっと池井多(ぼそっとプロジェクト)

 

◆ 特定非営利活動法人KHJ全国ひきこもり家族会連合会:事務局長・上田理香

 

◆ NPO法人楽の会リーラ(KHJ全国ひきこもり家族会連合会東京支部):代表・大橋史信

 

 

 

あなたも本書を読んで、「中高年ひきこもり」「8050問題」(80代の年老いた親と50代のひきこもる子との共倒れ問題)社会全体で解決する方法について改めて考えてみませんか。

 

 

 

2020年11月21日に、大杉潤のYouTubeビジネススクール【第165回】深刻な社会問題となりつつある「中高年ひきこもり」にて紹介しています。

 

 

 

 

 

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では、今日もハッピーな1日を!