書評ブログ

デイミアン・トンプソン『依存症ビジネスー「廃人」製造社会の真実』(ダイヤモンド社)

デイミアン・トンプソン氏は、1962年英国レディング生まれで、オクスフォード大学を卒業後、ロンドン・オブ・エコノミクス(LOE)にて宗教社会学博士号を取得した。

 

「カソリック・ヘラルド」紙の編集長を経て、現在は 「デイリー・テレグラフ」紙のレギュラー・ライターだ。著者は、18歳から32歳までアルコール依存症に陥っていたが、以来20年間にわたって禁酒を継続している。

 

本書は、著者の経験も元にしながら、綿密な取材を重ねて現代の依存症について様々な角度から考察を試みた注目の書だ。構成は以下の10部から成る。

 

1.社会は私たちを 「廃人」 にしたがっている
2.依存症は本当に 「病気」 なのか
3.なぜ自分を破滅に導く習慣をやめられないのか?
4.お買い物とヘロインとお酒の共通点とは?
5.スイーツはもはやコカインだ!

 

6.どこに行っても安く、大量に酒が手に入る世界で
7.処方箋薬がこれほどいい加減とは!
8.ゲームという新時代のギャンブル
9.「無料ポルノ革命」 の衝撃
10.われらを誘惑から救いたまえ

 

本書に出てくる依存症の対象は、伝統的にある、お酒、ギャンブル、ドラッグだけではない。カップケーキなどのスイーツ、ショッピングや無料ポルノなど幅広く紹介されている。

 

中でも現代の依存症として注目されているのは、i Phone をはじめとするアップル製品やインターネット、とりわけインターネット・ゲームだ。オンライン・ゲームは課金制のアイテム購入が中毒性があるとして社会問題になっている。

 

また、私が印象的だったのが、全米を席巻して今や世界の大都市に進出するコーヒーチェーンのスターバックスが売り出したフラペチーノへの依存症だ。今や、毎日フラペチーノなしでは過ごせない女性が急増している、という。

 

また、処方箋薬による依存症の話も衝撃的だった。パーキンソン病はまじめで内向的な性格の人に多い病気だが、治療薬であるドーパミン作動薬を投与されると、患者は突如として、ギャンブル、過食、買い物、性欲亢進などの行動をとり、歯止めが利かなくなるという。

 

これまでがまじめな性格だっただけに人格が変わってしまったようだと見えるらしい。原因は、処方箋薬に含まれるドーパミンの作用だ、という。ドーパミンは「快楽物質」 と呼ばれ、楽しいときに多く我々の体内に発生する。

 

しかし、このドーパミンが急激に増加してしまうと、好き (嗜好 Liking) という衝動よりも欲しい (希求 Wanting) という衝動の方が強く表れてしまう、と考えられている。

 

現代は複雑化する社会の中で、我々は様々なストレスを抱えながら生きている。誰でも、ほんの些細なキッカケによって依存症に陥るリスクやワナが周囲に蔓延している、と言えるだろう。

 

また、現在の科学技術の進歩がかえって、依存症への作用を加速している面もある。インターネットなど情報通信技術の革新や医薬技術の進歩についても、便利さの効用だけでなく、負の副産物にも留意すべきだ。

 

本書は現代社会と我々の将来の生き方を考える意味で大きな示唆に富んだ書だ。ひとりでも多くの人に推薦したい。