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高橋俊介『21世紀のキャリア論』(東洋経済新報社)

000742_li高橋俊介氏は元・国鉄(現・JR東日本)の技術畑出身で、外資系コンサルティング会社に転職後、現在は人事制度やキャリア開発分野の第一人者のひとりだ。

 

本書は高橋氏が所属する慶応義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)とリクルート・キャリアワークス研究所との共同研究の成果をまとめたもの。現役ビジネスマンへ大規模なアンケート調査とインタビューを実施した。

 

大学生の就職情報雑誌のパイオニアで、インターネット時代に最初にWeb就活の 「リクナビ」 をリリースしたリクルートの専門家集団と高橋教授チームの度重なる議論の成果は質が高い。

 

本書の中で著者は、現代は「想定外変化」「専門性深化」が同時に起こる時代であり、専門家としてキャリアを積むことは必要だが決め打ちは危険、と説いている。自分はこの分野で飯を食っていくと決めても、ある日突然、その分野が無価値になることが起こるのが現代だ。

 

半導体は今や技術のコピーが容易なコモディティになってしまったし、電気自動車の時代には、現在のガソリンで動くエンジンの技術者(内燃機関技術者)は不要になってしまうかも知れない。

 

最近の若者は自分の進路やキャリアを決め打ちして、そこから外れた仕事には興味を持たず、意欲を持って取り組まない傾向がある。しかし、そうしたキャリアの決め打ちは変化の激しい現代では極めてリスクが高い。

 

ではどうやってキャリアを開発していくか。まずは目先の与えられた仕事に全力で取り組んで専門性を身に付けること。そして偶然のチャンスを大切にして、できれば複数のキャリアの柱を持つことだ。

 

高橋氏は技術者で、コンサルができる人事開発のプロ。複数の専門分野の柱を持った人材は希少価値となり、多くの組織から求められるキャリアとなる。若者は決め打ちをせず、「普遍的な学び」を追及してべきだ。

 

基礎・基本や原理・原則、あるいは歴史や世界に視野を広げた多様な文化、語学力「普遍的な学び」で自らを磨きながら複数のキャリア、専門性を磨くチャンスを掴むことだ。それは多くは偶然に左右されるものだ。

 

以上のような著者らの熱い議論やキャリア開発の神髄が書かれているのが本書だ。就活や転職を考えている若者には必読の一冊だ。値段は高いがそれだけの価値がある「人生の指針」となる名著だ。