書評ブログ

鈴木敏文『変わる力』(朝日新書)

鈴木敏文氏は我が国最大の小売流通グループであるセブン&アイ・ホールディングス会長で、世界でもトップクラスの経営者だ。セブンイレブンを立ち上げ、40年間で1万6000店舗のコンビニエンス・ストアのチェーンを作り上げた。

 

セブンイレブンはもともと米国の会社であったが、日本法人が逆に本家を追い越し、買収して新たなビジネスモデルを作り上げた。コンビニエンス・ストアという日本発祥のビジネスモデルは今、アジアを中心に世界を席巻しようとしている。

 

鈴木氏は公共料金の収納や、全店舗にATMを設置するために行ったセブン銀行の設立など、常識を破るイノベーションを次々に起こし、小売業界で圧倒的な成長力と収益力を構築してきた。

 

鈴木氏は現在80歳を超える高齢ながら、会長として今もセブンイレブンの指揮を執る。 「我々のライバルは競合他社ではなく、つねに変化する顧客ニーズだ。」 と言い切る経営哲学にはブレがない。

 

本書では、そうした鈴木氏の経営に関する基本的な考え方、原理・原則が、セブンイレブンの成長の軌跡とともに具体的に述べられている。これまで鈴木氏は自身で著書を出すことは殆どなく、ジャーナリストが取材して鈴木氏の言動や経営理念を伝える本しかなかった。

 

そういう意味で本書は、鈴木氏自身がセブンイレブンの創業から40周年を迎える現在の進化した形に成長する沿革を書いた貴重な書籍だ。新書版という読みやすい形式だが、中味は濃く、深い。

 

セブンイレブンは常に変化するお客様のニーズに応え、お客様の立場で考えて事業を行ってきた。売れ残りは出しても欠品は絶対に起こさない経営姿勢と徹底した商品在庫管理。店長を中心に仮説と検証の繰り返しによる予測精度の向上

 

価格競争だけに陥らず、セブンプレミアムに代表される顧客がいいと評価する商品の開発と適正価格の提案。世の中は常に変化し、変化に対応できない企業は淘汰されるというシンプルな経営思想。

 

鈴木会長が自ら書いたセブンイレブンの経営が学べる貴重な書として、すべての経営者、経営幹部に一読を薦めたい。