書評ブログ

辻太一朗『なぜ日本の大学生は、世界でいちばん勉強しないのか?』(東洋経済新報社)

本書は、日本の大学生の就職活動における問題を分析した良書だ。職を求める大学生自身の問題、教育を担う大学の問題、そして新卒採用を行う企業の問題の3つが絡み合う「負のトライアングル」という構造問題だ。

 

トライアングルの構造は以下の3つだ。

 

1.大学生は、就職活動において、企業が大学の成績を殆ど考慮しないので、大学では勉強に力を入れない。
2.大学では、学生の出席率や勉学に取り組む姿勢が低いために、教授が講義に力を入れない。
3.企業では、大学の成績が採用選考にはとても使えないので、面接ではサークル活動、バイト、ボランティアの経験などを重視する。

 

以上の構造問題のために、結果として、学生は大学での本業である講義よりもサークルやアルバイトに精を出し、勉強をしなくなる。

 

また、大学では、教授の評価が講義内容よりも論文掲載など研究成果に重点が置かれ、学生の姿勢も講義に消極的で勉強しないため、本業である教育の質が低くなる。

 

そして、企業では、勉強しない最近の大学生に危機感を抱き、SPIなどの適性検査の点数と、アルバイトやボランティア経験など、少しでも入社してから勉強して伸びる素材を見抜こうとする採用選考を行う。

 

こうした「負のサイクル」は、誰が悪いというものではなく、三者の思惑が絡み合って出来上がってしまった日本の構造問題ということだ。

 

著者は、これを断ち切るための活動として、「考える力」を養う授業に取り組んでいる大学の講義を評価するシステムを作って、大学の成績が企業の採用基準として使えるように工夫を始めた。

 

教授の講義を評価すれば、教授や大学の評価が本来のものとなるし、質の高い講義で成績が良かった学生の質も保証される。難しい問題はあるが、意欲的な取り組みとして評価したい。

 

実際に、商社など大手企業が辻氏の活動に賛同して、一部大学の成績を採用基準として活用し始めた。

 

本書の先進的な取り組みは徐々に反響を呼びつつあり、すべての大学生、大学関係者、および企業の採用担当者に、ぜひ本書を読んでもらいたい。