書評ブログ

質の高いインストラクションとは?

配慮のない情報のやりとりによってこの世は誤解と失意に満ちています。誰もがこの現実を受け入れつつ、解決に向かう方策を知らないままでいます。

 

コミュニケーション・ロスを解消し、相互理解をはかるために、インストラクションの動きとその活用法を教える指南書があります。米国のビジネスマンを対象に書かれた、こちらの本を今日は紹介します。

 

リチャード・ワーマン『理解の秘密』(NTT出版)

 

この本は、私が主催する「読書交流会」にて参加者の若手ビジネスマンから紹介があった本です。著者のリチャード・ワーマンさんは現代の情報社会について見識ある分析や著作を発表している米国の建築家でグラフィック・デザイナーです。

 

TEDカンファレンスを創立したことでも知られています。80以上の著作やデザインに関わっていて前著『情報選択の時代』(日本実業出版社)は、情報社会に生きる現代人に向けた「情報ジャングル・サバイバルガイド」として専門家からも高く評価されています。

 

この本によれば、インストラクションは次の5つの要素から成っています。

 

1.送り手(GIVERS)
2.受け手(TAKERS)
3.内容(CONTENT)
4.チャンネル(CHANNEL)
5.コンテクスト(CONTEXT)

 

インストラクションは「何かをしてほしい」という単なるメッセージではありません。ひとつのシステムと言えるもので、上記の5つの部分に分かれ、このプロセスで行う選択の一つひとつが次のステップに影響を与えます。

 

送り手は、コンテクストという海の上で、チャンネルを選び、メッセージ受け手に送ります。インストラクションの内容(=メッッセージ)は、以下の6つから構成されています。インストラクションの構成要素(建築用語で言えば「部材」)です。

 

1.使命(MISSION)
2.最終目的(DESTINATION)
3.手順(PROCEDURE)
4.時間(TIME)
5.予測(ANTICIPATION)
6.失敗(FAILURE)

 

この本では、道順を教える場合を例にとって、これらの構成要素の定義を説明しています。道案内のこの比喩は地理的な指示以外にも応用できます。伝える順序や伝えられること・伝えられないことの区分けも重要になってきます。

 

また、インストラクションの種類は無限にありますが、大きくは次の3つに分けられるということです。

 

1.過去に関するインストラクション
2.現在に関わるインストラクション
3.未来指向のインストラクション

 

これらはそれぞれ、目標ベースまたはタスクベース指向の手法です。目標ベースのインストラクションは最終結果を提示します。一方、タスクベースのインストラクションは受け手を目標に導くステップを与えます。

 

最後に、この本で私が最も感銘を受けた「送り手」と「受けて」のタイプ別組み合わせについて紹介します。本書の中では前半部分に出てきます。まず「送り手」には以下の13タイプがいます。多くは職場の「上司」という立場の人たちです。

 

1.「尻かくせ」タイプ
2.「わしは偉いんだ、説明なんかしている暇はない」タイプ
3.「危機管理」タイプ
4.「割りこみ命令」タイプ
5.「肩ごしの監督者」タイプ
6.「俺にやらせろ」タイプ
7.「愛してるならやってください」あるいは「自責管理」タイプ
8.「自由放任」タイプ
9.「クロマニヨン・ボス」タイプ
10.「私の言ったことではなく、胸のうちを察知してやりなさい」タイプ
11.「相手の理解を過信する」タイプ
12.「鼻先にんじん」タイプ
13.「ピンポン」タイプ

 

それぞれどういうタイプの上司(ボス = 「送り手」)かは詳しく説明しませんが、だいたいニュアンスで理解できるでしょう。また自分の職場や身の回りで思い当たるタイプがいるのではないでしょうか。

 

一方で、「受け手」は以下の13タイプが挙げられています。多くは職場の「部下」という立場の人々です。

 

1.「早呑みこみ」タイプ
2.「無抵抗」タイプ
3.「へらへらのおべっか使い」タイプ
4.「究極の鈍」タイプ
5.「とても不器用なんです」タイプ
6.「あてもないのにさがしまわる」タイプ
7.「スタイル・マイスター」タイプ
8.「こき使わないでください」タイプ
9.「インストラクションには賢すぎる」タイプ
10.「資料大好き」タイプ
11.「過剰反応」タイプ
12.「木を見て森を見ず」タイプ
13.「いいですとも・しまった」タイプ

 

それぞれどういうタイプの部下かは説明しませんが、やはり想像はつくだろうと思います。皆さんの職場にも思い当たるタイプの部下はいることでしょう。

 

この本で問題にしているのは、これら様々なタイプの上司と部下( = 「送り手」と「受けて」)「組み合わせの妙」および「組み合わせの悲劇」についてです。要は相性が良いか悪いかという問題です。これがインストラクションの質を決めるのです。

 

まず「組み合わせの妙」については以下の3パターン事例が紹介されています。

 

1.「わしは偉いんだ、説明なんかしている暇はない」と「早呑みこみ」タイプ
2.「俺にやらせろ」と「とても不器用なんです」タイプ
3.「肩ごしの監督者」と「へらへらのおべっか使い」タイプ

 

次に「組み合わせの悲劇」についても以下の3パターンが挙げられています。

 

1.「肩ごしの監督者」と「こき使わないでください」タイプ
2.「私の言ったことではなく、胸のうちを察知してやりなさい」と「あてもないのにさがしまわる」タイプ
3.「自由放任」と「木を見て森を見ず」タイプ

 

世の中でコミュニケーションが上手くいかない事例は、インストラクションの質に大きく関わっており、それはこれらの「送り手」と「受けて」のタイプ別組み合わせに負っている部分が多いかも知れません。

 

経団連に加盟する企業の採用担当者へのアンケートで、新入社員に求める能力・資質の中で断トツの1位となっているのが「コミュニケーション能力」です。その本質を考え直すのに本書は多くの示唆を与えてくれます。皆さんもこの本から改めて有効なコミュニケーションについて考えてみませんか。

 

では、今日もハッピーな1日を!