書評ブログ

藻谷浩介『デフレの正体』(角川oneテーマ21新書)

藻谷浩介氏は政府系金融機関に勤務する銀行員だが、多数の公職も兼務する。「日本の少子高齢化による生産年齢人口の減少という構造問題こそがデフレの正体」というのが本書の趣旨。

 

この種の堅い経済書としては異例のベストセラーとなり、今や時の人だ。しかし、安倍政権の誕生を機に、世論は少し変化してきた。安倍首相の経済政策ブレインのひとり、浜田宏一エール大学名誉教授の登場による。

 

浜田教授は、日銀の金融緩和が足りないからデフレになっているというのが持論で、きちんとした金融政策を打てば2%程度の物価上昇は可能で、経済成長もできると説いた。

 

安倍政権は黒田日銀総裁との二人三脚で、まさに緩和政策を基軸に経済成長を目指している。日本の少子高齢化や生産年齢人口の減少は変わらないから、藻谷氏の議論は現在は影が薄くなってきた。

 

しかし、日本の構造問題は中長期で見れば、成長の大きな足かせとなってくるのは間違いなく、本書が我が国の抱える大きな課題について、世論に一石を投じた意義は大きい。

 

本書は統計数字を挙げながら、地方都市の具体的な実情を、とくに消費の面から記しているのが新鮮だ。実体経済と経済統計を融合させて議論を進める著者の手法は説得力がある。

 

物事はいろいろな角度から見て、将来を予測する際は多面的な見方が不可欠だ。そういう意味で本書は経営者ならぜひ一読したい名著だ。手に取ってみることをお薦めする。