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英「エコノミスト」編集部『2050年の世界』(文藝春秋)

本書は、英「エコノミスト」誌の執筆ジャーナリストによる2050年の世界を予測する本で、世界の人口統計をベースに経済、社会、文化、環境、科学、技術、医療などの分野における今後40年間の変化をかなり高い精度で予測したものだ。

 

執筆陣は以下の4つの共通項で2050年の未来予測を行っている。

 

1.過去を振り返り変化の性質、変化の流れを明らかにする
2.単純に流れを当てはめず、流れが途絶えることを積極的に見越していく
3.アジア(とりわけ中国)の隆盛を重視する
4.暗い見通しよりも前向きな進展の構図を描き出す姿勢で予測する(新技術)

 

2010年10月末に70億人を超えた世界の人口は増加の速度を増し、2050年には93億人まで増加して、2100年にかけて100億円を超えるあたりで増加が止まる。

 

人口増加23億人のうち半分はアフリカで増加する。とくにナイジェリアは389百万人で米国に並び、タンザニアも139百万人となる。2100年にはそれぞれ世界3位と5位の人口大国となる。

 

中国の人口は2025年の14億人でピークを迎え、その後は減少に転じる。2050年に世界トップのインドも17億人でピークとなり、その後は減少し、都市化と都市居住化が進む。

 

日本は世界史上、最も高齢化の進んだ社会となり、被扶養者と労働年齢の成人数が肩を並べるが、こうした社会は過去に例がなく、何が起こるかわからない。中国は富裕化の前に高齢化を迎える。

 

高齢化と肥満化が世界の趨勢となり、アルツハイマー病増大は深刻な問題になる。

 

また、主要言語への集中が予想される中で、英語は首位の座にとどまる。全大陸に英語を公用語とする国があり、科学論文の90%が英語で書かれている。

 

グローバリゼーションが進む中で、アジアが世界経済の支配勢力に返り咲くが、日本は急速にプレゼンスを失っていく。日本のGDPは2010年には世界の5.8%だが、2050年には1.9%まで低下していく。

 

次なる科学のフロンティアは、化学でも物理学でもなく、生物学にある。それは、①大量のDNA情報が解析可能となったこと、②顕微鏡の高性能化で細胞内プロセスをより完璧に理解できるようになったこと、③脳を調べる技術が向上したこと、などが背景にある。

 

今後の技術革新は、ハードのスペックよりも人間の思考、発見、知識の共有を拡大するものに重点が置かれていく。ウェブ技術の革新によって大量のデータが高速度で集められるようになり、社会、経済とも変容する。

 

これから2050年という未来を予測する上で、本書は多くの示唆に富む分析を提供している。英「エコノミスト」誌は1960年代の日本の高度成長と経済大国化を予言し、見事に的中させた実績を持つ。

 

また同誌は、グローバル・エリートが購読する定評ある雑誌で、多くのメディアが発行部数を落とす中で、2000年に100万部だった部数を2012年には160万部まで伸ばしている。

 

すべての経営者とビジネスパーソンに、新年に読むに相応しい書として、強く推薦したい。