書評ブログ

柳川範之『40歳からの会社に頼らない働き方』(ちくま新書)

柳川範之氏は、東京大学大学院の経済学研究科教授で、「40歳定年制」の政策提言を行っている。本書は、40歳定年制のコンセプトを政策面ではなく、一般の勤労者向けに伝える目的で書いたものだ。

 

インターネットの普及を中心とする情報社会の到来と、グローバル化の進展により、日本企業を取り巻く環境変化は速く、激しくなっている。「大企業に入社すれば、年功序列で出世して将来は安泰」 という時代では、もはやない。

 

どんな優良企業でも、一瞬の経営判断ミスで倒産に追い込まれるほど、グローバル競争は厳しく、変化が激しい。時代の変化に対応できなければ、大企業であっても存在価値がなくなってしまうのが現代社会の経済状況だ。

 

著者は、そうした中で、「会社に頼らない働き方」として、40歳以降は新たな選択肢を持って働くべきだと説く。一生会社を頼りにする時代は終わったということだ。

 

40歳以降の新たな働き方を準備する意味で、次の5つのステップを薦める。

 

1.将来に備えてシミュレーションをする
2.状況に応じた発想力を養う
3.目標を組み立てる
4.少しずつ踏み出してみる
5.引き返す

 

会社で現役で働きながら、試行錯誤して将来に備えるということだ。著者は、これをバーチャル・カンパニーと呼んでいる。できれば一緒に働くことになる仲間を募り、起業を展望する。

 

それを「複線的な働き方」と位置づけて、現在の会社で仕事をしながら準備をしていく。40歳という年齢ポイントが転換点となる、という提案だ。具体的な準備として、能力の棚卸しが必要だ。具体的な棚卸しの進め方も説明している。

 

そして本書で私が最も感銘を受けたのが、能力の棚卸しを行った後に、「どんな人でもスキルを磨く必要がある。」と説いている点だ。「スキルを磨く」とは何か。それは、自らの経験で学んだ知識やスキルを「学問で体系づける」ということだ。

 

大半のビジネスマンは、経験値が整理されずに頭に入っていて、すぐに取り出して使えるスキルとなっていない。武器として、つねに使えるようにするには、学問で体系づけて整理しておくことが必要だ。

 

現実の複雑な企業社会では、もはやパターン化は通用しない。初めて直面する環境変化に対しては、「学問による体系づけ」 が、問題解決を可能にしてくれる。

 

答えのない新たな課題に対しては、経済学や経営学など、学問によって体系づけられた経験が、「考える力」を引き出す。欧米の一流大学がリベラル・アーツを重視しているのもそのためだろう。

 

これからの働き方について多くの示唆を与えてくれる本書を、全てのビジネスパーソンに薦めたい。