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山本七平『帝王学 「貞観政要」の読み方』(日経ビジネス人文庫)

山本七平氏の著述活動は多岐にわたるが、中国古典、例えば「論語」「孫子」に現代的な解説を加えた本はそのひとつの系列だ。

 

本書は、「貞観政要」という中国古典を採り上げ、「帝王学」について現代にも通じる教訓を記した書だ。「貞観政要」というのは、中国古典の中では 「論語」 や 「孫子」 に比べれば一般にはあまり知られていない。

 

「貞観政要」は 知る人ぞ知る中国古典だが、唐王朝の二代目、太宗李世民の年号が「貞観」であり、その間の政治は「貞観の治」と後世の人々から呼ばれて称えられた。

 

また、「政要」とは政治の要諦という意味であり、つまりは「貞観の治」をもたらした政治の要諦を記したのが「貞観政要」という書である。太宗の没後、呉競という史家によってまとめられ、時の皇帝に献じられたものと言われている。

 

唐の太宗と彼を補佐した重臣たちとの問答を通して、貞観の治を現出させた苦心経営ぶりが、様々な角度から解明されている。以来、「貞観政要」「書経」とともに帝王学の原典として、読み継がれている。

 

「貞観政要」の帝王学は、本書解説を担当している守屋洋氏の要約によれば、次の5項目から成る。

 

1.安きに居りて危うきを思う (安泰や好調な時ほど将来に危機感を持って一層、気持ちを引き締める)
2.率先垂範、我が身を正す (君主がりっぱな政治・政治を行えば人民は命じなくても行う)
3.臣下の諌言に耳を傾ける (君主は臣下の諌言を聞きいれればりっぱな君主になる)
4.自己コントロールに徹する (権力の行使について自戒を怠らない)
5.態度は謙虚、発言は慎重に (臣下の者は君主の一挙一動に注目している)

 

このほかに、本書では山本七平氏なりの 「貞観政要」 の解釈、読み方として、以下の2点を挙げている。

 

1点目として、「創業」「守成」では違った能力が要求され、天下を収めたり事業を起こしたりする「創業」に成功しても、それが必ずしも維持・継続すること、すなわち「守成」に成功するとは限らない、と述べている。

 

2点目として、後継者の育成について、情実人事、すなわち身内の登用による二代目経営を行っても上手くいかないことが多い、と述べている。

 

現代の企業経営について、創業者社長後継者へのバトンタッチをいかに考えるべきか、まさに「帝王学」の神髄が読み取れる名著だ。すべての企業経営者や将来の経営者に本書を推薦したい。