書評ブログ

大宮冬洋『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ぱる出版)

この本は、新卒でファーストリテイリングに入社し、ユニクロ町田店で働いた著者の奮闘記だ。ユニクロは開店順に通し番号が付けられ、町田店は154番目の店だった。

 

ユニクロが全国区の有名ブランドとしてブレイクするキッカケとなったのが、1998年の原宿店開店と、同時期に起きたフリース・ブームだ。それからユニクロは急成長、いまや国内2000店舗を超える。海外展開も急激に進め、売上高は1兆円の大台に乗せた。

 

2020年の全世界の売上高目標が5兆円なので、これから更に7年で5倍の規模に成長することになる。その凄まじい急成長の裏側で何が起こっているのかを、店舗の幹部候補社員の目を通して描いたのが本書だ。

 

国内のアパレル業界でユニクロ以外は全て負け組、と言われるくらい、今やユニクロの存在感は大きい。東レと共同開発して記録的な売上となったヒートテックの成功が、現在のユニクロの地位を決定的なものとした。

 

その外から見た表側の顔と、中で働く社員からみた裏側の顔は驚くほど違う。大宮氏の経験はユニクロの殆ど全ての店で起きていることで、厳しい競争に勝ち残って店長やエリア・マネージャーへ短期間で昇進していくエリートがいる一方で多くの脱落者を生んでいく。

 

著者もユニクロの厳しい職場環境に適応できず、退職の道を選んだ。本書では、当時の町田店で働いていた元同僚に数年後にインタビューして、それぞれのユニクロ像を語ってもらうという設定になっていて、興味深い。

 

大学卒の新入社員が大量入社して、3年以内に大量に退職していくユニクロは、就職活動を行う大学生から、ネット上では 「ブラック企業」と呼ばれている。ブラック企業の定義は曖昧で、私にその真偽は分からない

 

ただ、本書を読めば、店舗従業員は甘い仕事でないことは確かだろう。とくに、「品出し」や週末前の「ポップ張替え」は並みの業務量ではないようだ。働き方や仕事をする意義、やりがいを改めて考えさせられる。

 

進路に悩む学生、社会人のみならず、中堅ビジネスマン、経営者も読んでためになるユニークな書だ。ぜひ一読を薦めたい。