書評ブログ

堺屋太一『団塊の秋』(祥伝社)

堺屋太一氏は通産省(現・経済産業省)のキャリア官僚大阪万博を実現させ、作家に転身した。「団塊の世代」という言葉の生みの親で、同名の近未来小説がミリオンセラーとなった。

 

予測小説というジャンルを拓き、その切り口の鋭さやコンセプト・メイキングの才能には誰もが脱帽する。橋下徹・元大阪府知事(現大阪市長)の「大阪都構想」は堺屋氏がブレインの一人となって構築したものだ。

 

また、1998年小渕内閣では民間からの入閣ということで、経済企画庁長官として辣腕を奮った。官僚出身なので、役所の使い方も心得ているし、前向きな発想が小渕氏の性格ともよく合ったようだ。

 

本書は、「団塊の世代」の総決算で、1947年から1949年まれの7名の男女が登場する。東大(法)卒の厚生労働省キャリア官僚、東大(経済)卒のエリート銀行員、早稲田大(政経)卒の新聞記者、京大(法)卒の弁護士から国会議員となった者、関西学院大卒の電機メーカー労組幹部、慶応大(経済)卒の商社マンから建設会社2代目社長、東京の女子大卒の高校教師という7名だ。

 

それぞれの人生は、日本経済の高度成長、バブルとその崩壊、リーマンショックなど激動の時代とともに波乱万丈の軌跡をたどる。パートナーとの出会いや子供、孫の成長も描かれている。

 

2015年から2028年までの15年間の未来予測小説になっていて、日本の少子高齢化による様々な変化が興味深い。つねに大きな人口の塊として、それぞれの時代を牽引してきた団塊の世代。その65歳から80歳までが描かれている。

 

それぞれの人生には輝いていた瞬間もあれば、苦境に陥った時期もある。著者自身は現在78歳であるが、80歳までの人生についてはよく見えているのだろう。リアリティもあってしみじみと考えさせられるストーリーだ。

 

これから本格的に少子高齢化が進む日本の主人公はやはり、この「団塊の世代」だろう。今後の時代を占う意味で、多くの示唆に富む良書だ。

 

空前のヒット作である堺屋太一 『団塊の世代』(文春文庫)とともに、全ての日本人に、ぜひ本書の一読を薦めたい。