書評ブログ

堤未果『ルポ 貧困大国アメリカ Ⅱ』(岩波新書)

昨日に続き、「貧困問題アメリカ」 シリーズの第2弾である本書を紹介したい。最新刊の第3弾 『㈱貧困大国アッメリカ』 が主に巨大な食ビジネスに焦点を当てていたのに対し、本書は主として以下の4つの構成から成っている。

 

1.大学の学費高騰と学資ローンによる若者の借金地獄
2.崩壊する社会保障
3.無保険など医療格差問題と医療改革のゆくえ
4.刑務所ビジネス

 

いずれの問題も1980年代のレーガン政権から始まった極端な自由主義経済と民営化路線が招いた、としている。大学教育に競争原理が導入され、政府補助の削減と効率性追求の原理で、授業料の値上げが続く。

 

そこへ学生向けローンの民間ビジネスが台頭し、巨額の政治献金を武器に官による学資ローンを駆逐していった有様が鋭く描かれている。まさに若者という社会的弱者を食い物にするビジネスだ。

 

また、州財政が厳しい貧困地区の多い州は、政府から自助努力を求められ、様々な公共サービスがカットされてしまう。警察や消防の予算削減は治安の悪化に直結し、教育予算のカットは、質の高い教育を受ける権利を剥奪してしまう。

 

医療は米国の最大のアキレス鍵だろう。医療費の高騰民間医療保険ビジネスの巨大化により、最低限の医療サービスさえも国民が受けられなくなっている。

 

オバマケアによる医療保険改革も、真の改革からはほど遠く、医療格差の問題は解決しないだろう。日本の国民皆保険制度の良さを再認識させられる。

最後の刑務所ビジネスは驚愕の内容だ。第3段にも出てくるが、要は究極の低賃金労働者を活用するビジネスだ。また、刑務所運営を民営化してREATという資金運用ビジネスにまでするという、米国の資本主義には驚かざるを得ない。

 

第1弾より、さらに洗練され、突っ込んだ分析を行った本書は、リーマンショック後の経済状況も反映しており、すべてのビジネス関係者にぜひ、一読を薦めたい。