書評ブログ

出口治明『本の「使い方」』(角川ONEテーマ21)

出口治明氏は、日本生命保険でロンドン現地法人社長や国際業務部長を歴任した後、独立起業してライフネット生命保険株式会社を立ち上げて、現在は同社代表取締役会長兼CEOだ。

 

出口氏は、幼稚園の頃から本の虫だったらしく、毎週10冊以上の本を読んだ時期もあったそうで、これまでに読んだ書籍は1万冊にのぼる。

 

実は私も同じような読書量になっていて、年間300冊の本を読む生活を30年以上続けてこれまで読んだ累計書籍数は約1万冊だ。それだけに本の魅力や読書の楽しみについては、著者の感覚に全面的に共感する。

 

本書は、出口氏が「1万冊を血肉にした方法」ということで、まさに本の「使い方」を指南した注目の書だ。読書好きの人には興味津々の内容だろう。本書の構成は、以下の5部門から成る。

 

1.本とは 「何か」 - 教養について考える
2.本を 「選ぶ」 - 「おもしろそうな本」 という鉄則
3.本と 「向き合う」 - 1行たりとも読み飛ばさない
4.本を 「使う」-著者に左右される人、されない人
5.本を 「愛する」 - 自分の滋養、他者への架け橋

 

出口氏の本の読み方は、明確なポリシーがあって、例えば読破した1万冊のうち半数の5千冊が歴史書だという。また、1行も読み飛ばさない熟読型で、速読などとんでもないというスタンスだ。また、「サザエさん」などの漫画や小説も多く読んでいる。

 

もうひとつ、日本マイクロソフト・元社長の成毛真氏が「本は同時に10冊読め!」と提唱しているのに対して、出口氏は1冊読み切ってから次を読むやり方だ。読む本の選定や読み方は、同じ読書家の中でも様々だという思いを強くした。

 

ちなみに、私は両者の中間のような読書スタイルで、2~3冊を同時進行で読み、ゆるい速読といった感じ。本のジャンルは、歴史書は少なくて1万冊のうち500冊も読んでいないし、漫画は全く読まない。小説も、城山三郎、高杉良、池井戸潤、江上剛などの経済小説を除いてあまり読まない。

 

本書で出口氏が唱えている、本が持つ5つの優位性は興味深い。次の5つだ。

 

1.何百年も読み継がれた 「古典」 は当たりはずれが少ない
2.コストと時間がかからない
3.場所を選ばず、どこでも情報が手に入る
4.時間軸と空間軸が圧倒的に広くて深い
5.実体験にも勝るイメージが得られる

 

それから、著者は本、新聞、インターネットの使い分けについても述べていて、活字中毒ということで、紙の媒体が中心だ。新聞の一覧性はとても重視している。

 

私との違いは、電子書籍だ。アマゾンでキンドルが発売されてから、私は徐々に電子書籍のウエイトを高めている。理由は、①価格の安さ(とくにキャンペーン価格)、②何千冊も持ち運べる携帯性、③洋書の電子辞書連動機能、の3点だ。とくに洋書の便利さについては、もう元に戻れない。

 

本書の最後には、年代別に出口氏の推薦書が掲載され、巻末に一覧表も出ている。以下に、とくにお薦めとしている書を紹介しよう。

 

1.マグリット・ユルスナール  『ハドリアヌス帝の回想』 (白水社)
2.ユージン・ローガン 『アラブ500年史 - オスマン帝国支配から「アラブ革命」まで』 (白水社)
3.H.J.マッキンダー 『マッキンダーの地政学 - デモクラシーの理想と現実』 (原書房)
4.ジェイン・ジェイコブズ 『アメリカ大都市の生と死』 (鹿島出版会)
5.小坂井敏晶 『社会心理学講義 - <閉ざされた社会>と<開かれた社会>』 (筑摩書房)
6.ダン・セトラ 『5 (ファイブ)』 (海と月社)

 

初めの3冊は、古典的な大作で、価格も高く厚くて重いので、まずは図書館で借りるのがよいだろう。最後の『5 (ファイブ)』は本ブログで昨日、紹介した書だが、ぜひ購入して書き込んでみることをお勧めする。

 

読書を人生の重要な活動と位置付ける知識階層の人々に、ぜひ参考として本書を一読することを強く、薦めたい。