書評ブログ

今野晴貴『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』(文春新書)

今野晴貴氏はNPO法人 POSSE の代表理事で、若者の労働問題に取り組んでいる。企業に適応できずに、うつ病になったり、退職に追い込まれたりする過程で相談窓口となって訴訟の支援などを行っている。

 

本書では、長時間労働や低賃金などで若者を使い捨てにする企業を、確信犯だとして厳しく糾弾している。その対象企業であるユニクロを展開するファーストリテイリングから著者に警告状が届いて反響を呼んだ。

 

本書も、昨日紹介した『脱社蓄の働き方』と同様に、あまりに極端な事例によって、考え方が硬直化しているという印象は拭えない。ただ、全くのデタラメというわけでは、もちろんない。

 

ゆとり教育と競争のない学校生活で忍耐力が育まれなかった若者には当てはまる部分がある。実際に、ストレス耐性を測定できる適性検査データによれば、高度成長期と比べ、バブル崩壊後の若者は明らかに精神面が弱くなっている。

 

また、うつ病の定義も変化した。DSM (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders = 精神障害の診断と統計の手引き )が時代とともに数度の改訂を経て変化し、うつ病の発症と認定されやすくなっている。

 

若者は自分だけでないと客観的に会社や職場の現状を見られるようになる意味で本書は有益だろう。ただ、思い込みは禁物だ。すべてが職場のせいばかりとは限らない。

 

本書はむしろ、経営者や企業の人事担当幹部が読んで、若者の思考法や世の中の企業を見る眼を認識する必要があるだろう。社会貢献が企業の評価基準として重みを増し、社会的存在が大切となっているからだ。

 

様々な立場の企業人にとって、役に立つ一冊として薦めたい。