書評ブログ

三田誠広『早稲田1968』(廣済堂新書)

昨日紹介した芥川賞作家、三田誠広の今年の最新著書が、1968年頃の早稲田を描いた本書。「団塊の世代に生まれて」 という副題がついているが、いつか書きたいと思っていたと言う待望の力作だ。

 

村上春樹立松和平も同じ世代の学生だったあの頃、大学闘争、バリケード、ゴーゴー喫茶、ビートルズなどが描かれている。私は、著者から10年遅れて早稲田大学に入学したが、学生運動の爪痕は残っていた。

 

「団塊の世代」という言葉は、通産省出身の異色作家である堺屋太一氏の編み出した言葉だ。今は60歳代半ばとなり、いよいよ現役の仕事からは退き始めてた団塊の世代だが、とにかくエネルギーに溢れ、つねに時代をリードしてきた。

 

今から約45年前となる1968年当時も、高度成長のさなかで様々な歪みが出ていて、団塊の世代が物凄いエネルギーで学生運動を引っ張っていた。よど号ハイジャック、1970年大阪万博や浅間山荘事件により終わった学生運動の変遷が書かれている。

 

もう忘れてしまった時代の記憶が蘇り、何か大切なものを忘れていないかと問いかけられている思いで本書を読んだ。1968年からの数年間で、何かがすっかり変わってしまったと述べる著者。

 

我々は常に時代の変化に直面し、何かを乗り越えながら進歩していく。科学技術の発達や人類の知恵による大きな変革。そんな中で、すっかり忘れ去られたものの中に、ほんとうに大切な何かがあったのではないか。

 

これからの時代の変化や世界を読み解くヒントとして、団塊の世代はもちろん、他の世代の方々にも必読の書だろう。心から薦めたい。