書評ブログ

ぐっちーさん『なぜ日本経済は世界最強と言われるのか』(東邦出版)

ぐっちーさんのペンネームで「The Gucci Post 」というブログを書いて人気を集める山口正洋氏は、1960年生まれ。慶応義塾大学経済学部を卒業後、総合商社の丸紅勤務を経て、複数の欧米金融機関に勤務、主に債券市場のプレーヤーとして活躍した。

 

その後独立して、現在はM&A、民事再生、地方再生まで幅広く手がける。最近は著書のヒットから金融評論家として執筆、講演活動のウエイトが大きくなっているようだ。本書もそうだが舌鋒鋭く、主張はユーモアを交えた批判がズバッとして小気味良い。

 

本書は、山口氏がブレイクするキッカケとなった話題の書。日本経済はバブル崩壊後、失われた20年や長引くデフレで、まったく元気がなかった。本書が出版された2012年9月はまだ民主党政権の末期で、経済政策も混迷していた。

 

そうした中で、ぐっちーさんこと山口正洋氏の持論は、日本経済の底力は侮れず、とくにITや先端産業に不可欠な部品や微細加工技術は日本企業抜きには語れないということ。

 

したがって、今はたまたま東日本大震災と福島第一原発事故の影響でエネルギー輸入が膨らんで貿易赤字になっているが、将来的には対外純資産の拡大と投資収益を柱とする資本収支の黒字で、経常黒字は維持される。

 

もう一つ、本書で強調されるのは、日本国債の相場観。膨大なカネ余り、運用難に苦しむ日本の金融機関は、運用資産のボリュームと流動性の観点から、日本国債以外に運用先はなく、簡単に債券相場は崩れない、したがって日本の金利は上がらない、というもの。

 

確かにこれまでは、著者の言うとおりに推移してきた。日本国債の信用不安を煽って空売りを仕掛けた海外ヘッジファンドは苦杯をなめ、日本国債はその都度買われて金利低下へと動いた。

 

マーケット売買の実務をよく知るという意味で、山口氏の主張はとても参考になる。ただ、相場は相場。今後も現在のトレンドが続くとは限らない。相場観を鵜呑みにすることなく、ぜひ著者の見識を学んでほしい。

 

金融界をめざす学生のみならず、商社や製造業で仕事をするビジネスマンも必読の名著だと思う。強く薦めたい。