書評ブログ

『武士の娘』の生き方とは?

明治6年(1873年)に越後長岡藩の家老の家に生まれ、「武士の娘」として厳格に育てられた杉本鉞子さんは、結婚によってアメリカに住むことになりました。

 

 

すべてが珍しく目新しい生活の中で、「武士の娘」として身につけた躾と教養を失わず、夫の死後、ニューヨークに住んで雑誌『アジア』「武士の娘」と題する連載を英語で寄稿し好評を博しました。

 

 

この連載は世界7ヶ国語に翻訳されましたが、本日紹介するのはその日本語訳であるこの本です。

 

 

杉本鉞子著・大岩美代訳『武士の娘』(ちくま文庫)

 

 

 

この本は、アメリカで出版された『A Daughter of the Samurai 』の日本語翻訳版で、もともとは1967年10月に「筑摩叢書97」として刊行されました。

 

 

 

英語版の原書は現在、Amazon の 電子書籍 Kindle にて90円で入手できます。私も早速、手に入れて一部、日本語版との対比もしてみました。

 

 

 

 

本書の冒頭はまず、杉本さんが育った越後の厳しい冬について紹介しています。一般的に海外から日本を訪れる観光客は西南の暖かい地方のみに行き、太陽と桜の印象です。

 

 

 

越後の冬は雪に覆われ、その中でピンと張りつめた生活を送る様子が描かれます。そうした生活の中での躾や勉強について、印象的なものを以下に挙げてみます。

 

 

 

1.四書(=大学、中庸、論語、孟子)という漢文を意味も分からぬまま音読

 
2.男の子が「大の字」で寝るのに女の子は穏やかな中にも威厳をそなえた「きの字」なりに寝る

 
3.8歳の時に初めて「牛肉」を食べることになる

 
4.13歳にも満たない時に「嫁入り先」が決まり結納を取り交わす(おぐしが一寸も乱れず褒められる)

 
5.東京の女学生たちが先生と親しくほほえみ合うのを喜びとするのに衝撃、身を引くように躾られたので戸惑い

 

 

 

6.「八犬伝」を女学校では「冒涜になる」と取り上げられ、卒業の時まで手許に返らなかった

 
7.主人が食べないものを花嫁が口にするのは、わきまえのないこと(パイを下げさせる)

 
8.着物の形、礼儀作法、日常茶飯事にそれぞれ謂を持つ日本に対して無頓着なアメリカに驚く

 
9.愛情表現でも日本はお辞儀、アメリカは接吻と大きな違い

 
10.外に対して感情表現をしない日本は幼な子と一緒の時だけは許される(アメリカは妻にも表現)

 

 

 

上記2の「きの字」は英語でも kinoji ですが、その意味するところは「Spirit of Control」で、日本語訳では「穏やかな中にも威厳をそなえた」になっています。英語の方が直接的な表現になっていて、気持ちや精神のコントロールということなのでしょう。

 

 

 

杉本さんは子供ができてからはミス・ウィルソンに子供を可愛がってもらい、さまざまに助けてもらってアメリカでの生活に慣れていきます。夫が亡くなった後も夫人に励まされて雑誌『アジア』への投稿を続けたということです。

 

 

 

ついに『武士の娘』がアメリカで刊行され、7ヶ国語に翻訳されるに及んで、杉本さんは以下のように心境を詠まれました。

 

 

 

Memory is a rainbow

 
Where tears drop amidst the sunshine

 
On life’s wondering path

 

 

 

思い出は虹の橋

 
人の世のさすらい路にはふり落ちし涙も

 
燦たる陽光にきらめきとかわりつ

 

 

 

『武士の娘』の陰に咲いた杉本さんとミス・ウィルソンの友情ほど美しいものはない、と翻訳者の大岩美代さんは述べています。ミス・ウィルソンは今、青山の杉本家の墓に眠っているそうです。

 

 

 

様々な「日本人」としての生き方を考えさせられる書です。皆さんもぜひ、一読をお薦めします。

 

 

 

では、今日もハッピーな1日を!